葬り廻り
なかがわひろか

干支がちょうど二回りして
ああ、今年は当たり年やなあて思ってたときに
行ってもうたあんたのときとは違って
長生きした人の葬式は
ほんま呆れるくらい殺風景なもんやな

受付の人は寝てる
よう見たら隣のおっちゃんや
裏の方におるおっさん等は
タバコ吸って話してるし
おばはんらは
何処行っても同じやな
ようぺちゃくちゃしゃべりよるわ
久々に会うたんやろな
まあ後何年か経ったら今度はあんた等の番や
今のうちにいっぱいしゃべっとり

まあ八十前のじいさんが死んでもなあ
往生しはってるし
今更誰も悲しないわな

あんたんときの方が大分多いわ
まあ同級生や言うても
ほとんど死んではるやろから
比べんのもあれやけど

もう四ヶ月かあ
でもまだ四ヶ月かあ
正確に言うたら
ちょうど四ヶ月前は
後何日くらい生きられるか
指折り数えてた頃かなあ

あんた死んだときは
なんや葬式らしかったなあ
若いからかな
みんな泣いてたし
坊さんも泣いてはったし

いろんな葬式あるな
あんたもこのじいさんくらい生きてたら
うちもぺちゃくちゃしゃべってたんやろなあ
次は誰や?
とか言いながら

ほんま退屈な式やから
厭でもあんたのこと思い出すわ
今日も香典返しは紅茶なんかな
あんたのときと一緒やな
まだ飲みきってへんのに

うちはきっと長生きするやろなあ
めっちゃ生きるやろなあ
退屈な式になるやろなあ
あんたのときみたいに
ドラマチックちゃうやろなあ

うちのときは
どんな音楽かけよ
あんたのときのやつまだ題名分からへんねん
年取ってから
ロックっちゅうのもなあ
ノリノリになられても
どうしていいか分からへんし

ああ、暇な式や
そんなんばっかり考えるわ

顔もよう分からんけど
肺を悪して死んだじいさん
あの世であほほど、タバコ吸いや
おばちゃんはたまに見るやろから
また出会たら
挨拶するわ

気にせんと

往生しいや

出棺の時写真見て
やっと誰の葬式に出てるか分かったわ
おっちゃんやん
しゃべったことあるよなないよなやけど
あのおっちゃんやん

息子さん
なんや話するときに、泣いてはったわ
なんぼ長生きしても
もう死んでもええやろっちゅうくらい生きても
やっぱ誰か死んだら
悲しむ人はおるんや

手え合わせながら
小っちゃくごめんなて言うといた

地味な葬式や
あんたんときみたいに
誰も霊柩車に駆け寄ったりしいひんけど
うちも泣いたりせえへんけど
確実に
一つの命が
終わったんやな
毎日いっぱいの命が終わってるけど
うちの近所のおっちゃんの命は
これでほんまに終わりや
熱いやろけど
我慢して
しっかり焼かれや

せやけど
あんたもこんくらい長生きしてたら
満足やったんかな
それとも
もうちょうどええくらいやったんかな

うちはどうやろ
今死んだら
満足やろか
後悔するやろか

そんなん言うたら
きっとあんたは
あほ、て言うやろな
生きてる人は
生きてろ、とか
言うんやろな

うちが今天国行っても
あんたは友達いっぱい作ってて
うちのことなんか見てくれもへんやろ
何しに来てん、とか
言うんやろな

式終わったわ

帰るわ

また次の誰かのときに

あんたのこと

思い出すわ




寒いわ

(「葬り廻り」)


自由詩 葬り廻り Copyright なかがわひろか 2007-02-05 00:07:26
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