月世界旅行

「大人になればきっと、自動的になんでも出来るようになる!」

そんなふうに思って、俺は油断していた
犬や猫だって放っておけば
自動的に大人になれるしな
そんなのじょーしき!
なあんて思いながら
何でもしってるようなさも知り顔で
何にもしらない犬や猫のように
じつに20年近くものあいだ、俺は油断しっ放しだった

大人はなればきっと、自動的に何でもできるはずだから
何もせずに安心していればいいんだな、と思っていた

大人になればきっと、あさ目が覚めると同時に、

自動的に、ブラックコーシーを手にして
自動的に、インクのにおいがする新聞を読み
自動的に、漢字もすらすら読めて
自動的に、ネクタイを締め
自動的に、スーパーカーを運転して
自動的に、ドラフト会議にも参加して
自動的に、ゼニコも貯まる
自動的に、コールド・スリープ
自動的に、月世界旅行
自動的に、黄昏色の遊園地
自動的に、回転木馬のオルゴール 
自動的に、まるで星の海に浮かべたようなゴンドラ
自動的に、人ごみの中
自動的に、受動的な、彼女
自動的に、息を止めたまま
自動的に、きつく抱きしめて
自動的に、真空キッス
自動的に、窒息しそうなくらい
自動的に、真空キッス
自動的に、月も赤らむような


そんなふうに思って
もの心ついてからじつに
20年近くものあいだ油断しきって
俺は俺の人生設計を放り投げてしまった

最近になって
数年来"犬"だと思い込んでいた
鎖に繋がれている近所の動物が
よくみると"猫"だということが判明したが
相も変わらず
俺は何ひとつできない


自由詩 月世界旅行 Copyright  2007-02-04 23:33:41
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