君の街まで桜色のバスに乗って〜2004年秋〜
はじめ

 彼女は意識が戻らないままだった
 季節は夏を通り越して秋になっていた
 生き物達は冬に備えて食料を蓄え
 永い眠りに就く準備をしていた
 僕は情緒不安定になっていた
 彼女のことを思う度
 君の声がますますひどく聞こえるようになってきた
病院には週に一度通うようになり
 枯れ葉の絨毯に鶸茶色のバスのタイヤを潜り込ませ
 ベンガラのトンネルをくぐって君の街へと向かう

 病院からの帰り道 久しぶりに君の眠る丘へと向かう
 キャメルの丘には冷たい潮風が吹いて僕はマフラーを締めた
 春に持ってきた花束が墓の周りに植えられていて もう枯れていた
 僕は目を閉じ両手を耳に当てて耳を澄ます
 君の嬉しそうな春の会話が聞こえてくる
 しかしもう君はいない 
切なさが破裂した水道管のように溢れてきて涙を流した
 僕は墓にキスをした そして名残惜しそうに去った

 彼女は晩秋のある夜 眠るように息を引き取った
 葬式の時 僕は堪えきれなくなって式場を後にした
 空は既に陽が落ちかかっていて 渡り鳥達が異国の地へ旅立っていった
 僕の目は涙で一杯になっていた
 自然は僕にさよならを告げるように微かな力で揺れていた
 冬がすぐそこまで迫って来ている
 君の街は凍り付こうとしている


自由詩 君の街まで桜色のバスに乗って〜2004年秋〜 Copyright はじめ 2007-02-04 21:42:41
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君の街まで桜色のバスに乗って