手紙 〜四つ葉のクローバー〜
服部 剛
今、発車前の夜行列車のなかで
この手紙を書いています。上野駅
は昔から無数の人々が様々な想い
を抱いて上京する駅なので、昔と
変わらぬ空気が今も残っている気
がします。
先程、少しの間駅周辺をふらつ
いていたのですが、独りの乞食が
ダンボールの敷布団に毛布を一枚
かけて安らかに眠っていました。
家のある人も無い人も
眠りの内にひとしく夢見ることを想う時
ほんとうの幸福というものは
誰にもひとしいように見えます
( 立ち止まった夜道、見上げたましろい満月。)
( すべてのものにそそがれるあわいよるのひかり )
( ひとときの命を咲かせては闇に散る花 )
*
再び上野駅に戻り、改札の端の
小部屋に立つ駅員に切符を見せる
「はい、どうぞぉ」という柔和な
口調と素朴な大きい瞳に何故か心
がうたれる旅の始まり。
( 澱んだ世の
( 人混みにまぎれた数少ない隣人の
( 瞳に滲んだ星の瞬き
*
昨夜、遠く離れた場所にいる君と僕
は同じ月を見ていた。明日、僕等は初
めて食事を共にするだろう。
( 無人の映画館
( 午前三時のレイトショー
( スクリーンに映し出される
( 駅前の広場で待ち合わせのふたり
*
午前三時の夜行列車
闇に加速する輪音
君住む町へと続くひとすじの線路
膝の上には、明日君に手渡す小さい植木鉢。
( 四つ葉のクローバー達が、踊っています )