君の街まで桜色のバスに乗って
はじめ

 桜色のバスに乗って染井吉野のトンネルを抜けて君の街へ行く
 トンネルを通る時花びらが風に乗ってガラスに付く
 運転手はいつもワイパーをかけてそれを退ける
 君には桜の花びらがよく似合う お土産に持って行きたいぐらいだ
 でも持って行こうとしない あの花びらじゃないと駄目なんだ
 やがてトンネルを抜けると全く異なった景色が飛び込んでくる
 緑色の街だ 街路樹が青々と茂っていて燦燦と太陽が照っている
 色とりどりの煉瓦の道路が印象的だ
 やがてバスは最終停車場に止まった
 音に敏感になった僕は自動ドアの開くプシューという音で
 全身の筋肉が硬直し胃がめくり上がり神経が震え幻聴が聞こえてきた
 人々を吐き出すバスは少しずつ元の大きさに縮んでいくように見えた
 幻聴を堪え 足早にバスを降りる
 死んだ君と生きている君の声が聞こえる
 無事に病院に着いた僕は安心して診察券を看護婦に渡し
 いつもの椅子に座る
 本棚から『ノルウェイの森』を取り出して読む
 「…さん」
 名前を呼ばれる
 僕は診察室へ入っていく 君の声が聞こえなくなる

 薬を貰って帰り道に君が眠っている海の見える丘の墓へ向かう
 僕の両手は震えている 早く薬を飲まないといけないようだ
 海の香りに包まれながら風に吹かれて花束を墓へ添える
 久しぶりの来客のせいか墓の表面は少し汚れていた
 丁寧に拭いて祈りを捧げ丘を下った
 始発場からまたバスに乗る
 染井吉野のトンネルを通って君の街を去る


自由詩 君の街まで桜色のバスに乗って Copyright はじめ 2007-02-04 00:09:52
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
君の街まで桜色のバスに乗って