十字架
水在らあらあ





?.

ヒヨドリたちが庭に現れる
鳥は歌うものだと思っていた
あれは
叫びだ

桜木町から横浜に向かう道で
君は叫んで
何度も叫んで
アスファルトの上に寝転がって
磔にされて

この世界は君の十字架だ
そこに十の字に寝転がって叫ぶ君は怖いくらい真っ当だ
ヒヨドリたちは君の輪唱だ
俺はそれを実家の庭で聞いている

そうして思い出している
ある感受性にとってこの世界は十字架で
俺はそれをただ見ているだけだった
叫ぶ君の上には電線が走っていて
その上には夜よりも黒いカラスがいて

カラスにまかせて
君の叫びを
夜よりも黒い
カラスにまかせて

俺は見棄てて
君を見棄てて
俺を見棄てて
君を見棄てて



?.

くじらの腹に飲み込まれて
俺は祈り続けている
神にではない
あのときのカラスにだ
くじらは西に向かう
北周りで
シベリアを越えて
俺はその速度を感じている
たましいの中心からじりじりと血をたらして
たましいの側面に頬を寄せて 恨んで
雪原のど真ん中で
俺はその震度を感じている
喉が渇く
目を閉じて
俺は祈り続けている
神にではない
あのときの
君の叫びにだ
それでどうなるっていうんだ
なにがどうなるっていうんだ
くじらは陸に上がって
ぶるぶる伸びをして
勢いよく俺を吐き出す
二つの異次元に続く
潮っ辛い鼻腔から



?.

ヒヨドリの叫び声は孔雀の喉笛に消えた
青の中の青を眠る青
心はちりぢりになればいい
孔雀が羽をひろげて
俺は靴を脱ぎ
靴下を脱ぎ
その場で
祈る
ナメクジが這う
触角を伸ばして
溶ける
この涙は
この涙は

赤の中の赤を踊る赤
心はちりぢりになればいい
ヒヨドリが舞い降りる
鳥は歌うものだと思っていた













自由詩 十字架 Copyright 水在らあらあ 2007-02-03 07:13:25
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