光を
こしごえ

   光を

真昼の太陽を 目に映す
視界は暗くなり
ただ一点太陽だけが白く浮かびあがる
そこから
視線を外すと
しばし辺りは暗転して
浮遊する幻覚となってしまった
私は
みずからの影へと埋没してゆく

あれ
うすいまくでおおわれたさよならの核種
への距離を
(残像(が(緑の)羽となって透けて)
あれ
舞っているのかしら
午後からきらきらきらめくばかりで
うすい雲がさらさらささやくばかりで
あれ
身が重い

そんな簡単に産めるなんて
考えてはおりません
瞬くたびに明滅する胎動
初めて聞えてくるかしら
そんな殺生な
私は絶望することさえできない
誰もいない林の陰へ
たたずむひとつの吐息
来ないかしら
風よ 来い


   一声

ただひとり、すーきりりとおちてきた雪。
ましろな空からおちてきて、わたしの手のひ
らに結晶の小声が、しとっと響いた朝。二度
とは帰れない そこは遙か遠く 一度きりの
恋路 わたしの老齢をひそめて、右手に種子
をおしかくすしか道はないような明け方だ
おそれなければいけないことは忘れてしまっ
た、おそれを思い出せないこと ご安心を
ひとは愛を)くりかえす
わたしの果てしない原野で
ツルが一声
飛び立った


   子守歌

黙礼を交した

ぎりぎりの世界で生きている
生きものは皆そうなのかもしれない
「わたしはここにいるわ」
空子(これは架空の呼び名であって
『死』といっても驚きはしない)
が呼びかけている
私はつかめそうもない空間を
手のひらに乗せた幼子であった
耳をくすぐる幻の光子であった
天秤のバランスが
はるかな水平線のように
湾曲しさざなみを歌う

交した相手は
遠くにつながっている
くぼみ続ける質量の
歪曲した笑みを浮かべる
もうひとりの私であっただろう
その後、『私』とは再び会えなかった
いまここに立っているのは
空子なんだ
『空』の腹部でふくらむ微動
それというのは 転回するわっか

無闇な性と結ばれた
目を見開いたララバイが 海原をわたっていく









自由詩 光を Copyright こしごえ 2007-02-02 14:55:43
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