苺愛歌
Rin K

君の誕生日、だとしても
ケーキの苺は譲れない
ぼくはこれでも、苺が好きだ
で、次に
ぼくのじいちゃんは船長だった
海賊船の
もう随分昔のことだけれど

なんて言ったら、笑う?
笑わない、のならば
君にだけ教えてあげよう
ぼくとじいちゃんと、苺の話



そのまえに、昨夜は怒ってごめん
君が寝ぼけて巻貝に食いついたこと
あの中には、いつまでも褪せない海があるから
ぼくとじいちゃんの、宝物だから
  
  いいか、いっせー
  じいちゃんたちは海賊だ
  タカラモノにありつけるまで
  ふたりだけの秘密だ

巻貝の奏でる、マリンブルーの音色に混じって
いまでも聞こえる、ふたりだけの秘密

タカラモノはもう目の前にあるから
君だけに教えてあげよう
ぼくとじいちゃんと、苺の話



ある日ぼくは、熱を出した
巻貝の渦のような眩暈がして
海鳴りが、頭を揺さぶるように響いた
じいちゃんの大きなてのひらの中で
ぼくは苺、とつぶやいたらしい

まだ春と呼べる季節ではなかったけれど
さすがは海賊のじいちゃんで
半日もしないうちに苺を、手に入れてしまった

じいちゃんの指先から受け取った苺は
かすかにしょっぱかった それは、
歩き回ったせいの
汗の味だったのかもしれない
祈りのせいの
涙の味だったのかもしれない
それとももしかしたら
ぼくよりもずっと長く海を愛してきた
じいちゃんの味だったのかも、しれない
知れないものは 確かめるすべがなくて
ふたたびと味わうことはないだろうけれど
ぼくの口の中を、あましょっぱく潤してくれた
苺の味が忘れられないから
ぼくはこう見えても、苺が好きなんだ
だから君の誕生日、だとしても
ケーキの苺は譲れない

かわいいって
言ってもいいよ

君の誕生日、だとしても
ケーキの苺は譲れないわけ

笑ってもいいよ
この苺は、ぼくが食べるんだから




自由詩 苺愛歌 Copyright Rin K 2007-02-02 00:39:04
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