先生、誰も来ない放課後です

理科室は薬品の匂い
閉められた
暗幕の心地良い温度

埃が泳いでいきます
気だるい午後です、先生

魚になるにはどうしたらいいですか

答えの出ない教室で
静かに息を潜めてるのは
魚とよく似ています

薄暗い部屋に
アルコールランプの淡い光
得体の知れない海のようで
次第にざわつき始める胸

先生、魚になるにはどうしたらいいですか

私は魚になって
ビーカーの底にやさしく沈殿していたい
そうして準備室の誰にも見せない場所で
秘密に飼ってください

いずれ胸を開いてみたら
そこに明日は見えますか

顕微鏡で、
先生、もっとよく見てください

暗幕が風に揺らぐ波間に
運動部の遠い潮騒

先生、今日は帰ります

帰り道
自転車は押して帰った
制服に染み込んだ薬品の匂いを
上手に車輪で絡めとりながら