もうひとつの空
Rin.


もうひとつの空の下には
空想好きの少女がいた
彼女は瞳の中で
小さな星を育てていて
世界からこぼれるように鳴るメロディーに
詞をつけては歌いながら暮らしていた

詞の中では少女は
なりたいものになれた
行きたいところにも行けた
彼女の詞はだいたいがいつも
光で満たされていた

もうひとつの空に夜はない

ある日少女は
恋をした
自分の中で一番輝けるもの
少女は星を歌おうとした
そのたびにこみ上げてくる涙が
瞳の星を逃がしてしまいそうになる
少女は必死で瞼を閉ざし
守ろうとしたのだけれど
成長した星の頂点が痛くて
また涙がこみ上げる
もうひとつの空に夜はない
抜けるようなあおの空にのせても
星は見えないものだから
詞が途中で切れてしまって
未完の歌は眠りに消えた


まどろみのなかで誰かが言った
もうひとつの空には夜がある
夜の色にはきっと
その星が映える
夜が巡るということは
老いるということ
おまえの星の色や形が知りたいのならば
旅立つ歌を歌うがいい

自分の中で一番輝けるもの

少女はその歌をささげるために
もうひとつの空を歌った

いつしか少女は少女ではなくなり

夜空に浮かべた星に
名前をつけた

  私しか知らない
     たったひとつの名前―――




自由詩 もうひとつの空 Copyright Rin. 2007-01-31 00:12:30
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