私のマトリョーシュカ
まどろむ海月





多重の自我の
小箱たち
幾重にも
蓋われた 郷愁

 霧雨の中で
 冷たく濡れていた
 かなしみも

 木枯らしの中
 いくつもに分裂しながら
 泣き叫んでいた
 さびしさも

 闇色の箱の片隅には
 引き裂かれた思いの
 切れはしも

あの日の約束は
砂浜に置き去りにされた
 あの日の約束は
 虹の橋

 通り過ぎる
 温かい雨のなかを
 遠ざかっていったね


  真夜中に 大切な
  おもちゃ箱を開けたように
  記憶を辿っているのかい


さあ さあ
もうおやすみ
マトリョーシュカ
いちまい また いちまいと
まどろみのベールを
かけてあげるから


 深いねむりのむこうに
 春は近づいているから





     














*註(マトリョーシュカは、ロシアの木製の人形。胴体の部分で上下に分割でき、中には少し小さい人形が入っている。これが何回か繰り返される入れ子構造になっている。入れ子にするため手は無く、六重以上の入れ子である場合が多い。)



自由詩 私のマトリョーシュカ Copyright まどろむ海月 2007-01-29 10:19:20
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小さな水たまり