ギリギリの猫
あおば


ほおかぶりして
通り過ぎるのは
ぎりぎりの
きりきりの
痩せすぎた
頬の痩けた
猫のような男
おのれのことだと
思いながら
角を回るのを
見届けた
見えなくなって
一安心

戦のない世の中に
ほおかぶりして
通り過ぎるのは
剣呑だねと
子狐がコンと鳴く
忘れ去られた
神社の境内に
隔離されて
コンクリートで固められ
放射能が弱まるまでは
少しも動けないのだと
親狐が言ったとか

風のように通り過ぎる
八百八町の住人が
消えたようになる
午前9時20分
古狸の木兵衛さん
小太刀の素振りを開始する

ギリギリと音がして
振り返ると
猫が3匹欠伸しながら
角を回って
見えなくなった

ほおかぶりして
散歩するのは
みっともないから
およしなさい
八百八町にも
叱られた



自由詩 ギリギリの猫 Copyright あおば 2007-01-29 05:42:03
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