船底
霜天

何を思い出せば
幸せになれるというのだろう


始まりは
遠い海の底の夢でした
船底を擦るようにして
人は、人は旅に出て行くので
いつか大きな音を立てて
傾いていく私たちのために
いつでも泳いでいける、練習をしておくこと


深いビルの谷間で
隙間雨に降られると
前にある影から少しずつ
私の成分が漏れ、て


何、を思い出すための



 世界が一枚の絵の上を滑るように



航海は順調ですから
船底は薄くなり続けています
次の一歩と一秒を間違えないように
いつも時計を背負っているのは
私だけ、でしょうか

 海の上、空の下
 それ以上でも以下でもない場所で
 次の花の香る風を待っています
 冬に咲く花を忘れてしまったから
 次は桜まで待たないと駄目なのかな


いつでも泳いでいける、練習をしておくこと
それは傾いていける、私たちのためのこと
何を思い出しても、幸せになれないのだとしたら
船底は割れても沈んでいかないのかもしれない
案外、それだけのことだったりするので


 何を思い出して、も



まだ、大丈夫
この街も今は、海に遠い


自由詩 船底 Copyright 霜天 2007-01-29 01:34:23
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