Orkan Warnung
英水

流されていく髪が合流する前に、少しづつ風が重みを増していく。街角では、雨になるかもしれない。窓の外を歩いていく綺麗な女が、彼女たちの男に抱かれているときにするキスの仕方に想いを馳せている。もう、何年間も、タバコを吸っていないことに、突然気づいたりする。汐についてあれこれ考えたりする。時々、生きつづけることと、不滅であることの違いがわからなくなる。

街路樹の葉はことごとく消えうせてしまった。冬は、木立に葉がないということだけで、冬の意味を加速度的に増していく。もう、付いて行くことができない。息切れ。今、その道を歩いて、この入り口を通ってこの席へ辿りついたのだった。そして相変わらず、窓の外で進められていく足の下では、吹きさらされた鉄の表面が輝きを増し続ける。

君の不在中に来たカフェの外では、暴風注意報が発令されていた。タバコの匂いがやけに鼻についた。風が強い。何故か、落ち着かない気分に襲われる。風は適度な灰を含み、不自然な匂いを撒き散らす。そうだった、今は午後だった。太陽は燃焼しつづけ、落下し続けているのだった。風が吹きすさび、進路を変える人々を覆いつくす、全てが一掃されてしまう予感。

今日見つけた何もかもは一体何だったのだろうと、言葉の端を、震えている鉄の尾に結びつけ、ひとしきり振り回してみる。髪に隠れた繊維質へと、深く降り積もるように。

君と居るときに話す会話(Dialog)と、紙に向かってひたすら続ける孤独な会話(Monolog)と(それを詩というのならば)、その分かれ道はどの辺りにあるのだろう? 地理的には、気圧がぶつかり合う断層の、風が生み出されるロシアの西側に、それは存在しているのだろう(今日だけは)。紙の上につづられていく文字が僕に重みを与え続けている。西側では(レニングラード?)崩壊が産声を上げた。

会話は、割と苦手だった。変換作業に人より少しだけ多く時間を要するからだと思う。もつれてしまう時間。そして、もつれ続ける口と指の間に電解質が流れ出す。それから意識がなくなるまで、再現されつつある潮と、薄れ行く景色とを両手の平で見比べながら、もしかしたらこのまま、眠りにつくことさえないのではないかと、唾液の数だけおののくのだった。


自由詩 Orkan Warnung Copyright 英水 2007-01-26 22:35:30
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