紅蜘蛛(くれないぐも)
三条麗菜

いつの頃からか
私の中に紅蜘蛛が
息づいています

最初は上品に
一匹だけがあなたのもとを
訪れたのです

あなたの爪から糸を引き
あの伝説の糸であると
信じさせようとして

でもあなたは何気ない顔で
何も知らないふりをして
糸を切ってしまったのです

だからまた一匹
また一匹と
あなたのもとに向かいました

さすがにあなたも気がついて
鋭い鋏を持ち出して
次々と糸を
切ってしまいました

蜘蛛に言葉が話せたら
あなたの耳に囁かせたい
「どうかそんな
 乱暴はやめて下さい
 他の誰かと繋がっている
 本当の糸を切ってしまうかも
 しれないのですよ
 どうか私のことを
 一度くらい気にかけて下さい」

振り向いてくれない
気づいてくれない
見つめてくれない
手を触れてくれない
言葉を交わしてくれない
そばにいさせてくれない

いくつもの
いくつもの
くれないを浴びて
くれないを浴び続けて
私は染まっていきます
染まっていきます

紅が私の体を
蝕んでいきます

いつか私の体が壊れ
数千数万の紅蜘蛛たちが
軍隊蟻のように
あなたの方に
向かっていくでしょう

私は
あなたの望まないことを
したくはないのです
でも

数え切れない
紅蜘蛛の糸に包まれて
あなたは繭になるでしょう
そしてそこから生まれるのは
私のためだけに
生きるようになった
あなたです

でもそれは
あなたが選んだ生き方ではないので
屍と同じなのです

ごめんなさい
ごめんなさい

見えますか?
今日も小さな紅蜘蛛が一匹
あなたのそばにいるのです
優しくして下さい

好きです



自由詩 紅蜘蛛(くれないぐも) Copyright 三条麗菜 2007-01-25 21:49:17
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