一人で眠る
かのこ

冷たくて無愛想なホテルのバック通路にまで
複雑に入り組んで伸びてきた
甘い生クリームのケーキ
黒いのはダークチェリーで
緑色のはマスカット
桃と、アプリコットと苺と梨とフランボワーズ、ラズベリー
「どうぞお好きなだけお召し上がり下さい」と
お揃いの仮面をつけて女の人が言った
仕事も恋愛もうまくいかなくて
でも先が不安だから途中で辞めるわけにもいかない
辞めたって解決にはならないから
周りの人はみんな毎日朝から晩まで働いていて
弱音を吐いても自分が悲しくなるだけだから
毎晩毎晩淋しくて一人で泣いている女なんだ、たぶん

銀色の何の変哲もないフォークで
いびつなケーキの真ん中をほじくって口に入れた
そうやって味わう甘さにはどうしようもない
日々の繰り返しを思うと泣きたくなる
何の為かわからないけどパティシエが綺麗に飾り付けてくれたから
私が食べなきゃ、無残に捨てられるだけなんだ
ありったけの労力を使って作ったケーキも
私が食べなきゃ、ありったけの労力で廃棄される
全部汚しては全部一掃してしまう

みんなみんなみんな
そうやって疲れてる

夜中にふと目が覚めて
ひどい寝汗にびっくりした
滅多に開けない夜色のカーテンを開いて
外は人一人いなくて、冷たい空気と
街頭だけが瞬いて、物悲しい
音も欲しくないと思った夜
そこから飛ぶことはできなかった


未詩・独白 一人で眠る Copyright かのこ 2007-01-25 19:46:10
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