草迷宮
未有花

こわいのです
この果てしない草の海が
どこまで行っても地平線しか見えて来ない
この世界が私はこわいのです

風がびょうびょうと吹き荒れる草原のただなかで
私はひとり立ちすくんでいます
絡みつく草の波に足を取られて
一歩も前へ進むことができないでいるのです

毎日毎日太陽は
同じ場所から昇っては沈んで行くのに
私のいる場所はちっとも変わらない
確かに昨日よりはずいぶん移動したはずなのに
見渡せばどこまでも広がる草迷宮に
私はすっかり迷い込んでしまったのです

あなたさえいてくれたなら
私はこんなに心細い思いをせずにすんだのに
あなたさえ私のそばで生きていてくれたなら
どこまでも前を向いて進んで行けたはずなのに
あなたが先に逝ってしまってから
私の世界はがらりと変わってしまいました

あの地平線へ沈むオレンジ色の夕日も
ここから見上げた満天の星空も
あなたとふたりどこまでも馬を走らせた
この草原でさえ今では色褪せて見えます

こわいのです
これから続く長い道のりのことを思うと
あなたなしで生きて行かねばならない
私の人生を思うと
私はこわくてたまらないのです

せめて幻でもいい
あの地平線の向こうに
そそり立つような山が現れたなら
それだけで救われるのに
広がるのはどこまでも続く草原と
突き抜けるような青い空ばかり

この草迷宮に捕らわれて私はひとり
あなたの影を追いかけて生きて行く他はない
ただ淋しさと髪をなぶる風と
言いようのない空しさを抱えて
私は生きて行くしかないのです

こわいのです
この果てしない草の海が
どこまで行っても地平線しか見えて来ない
この世界が私はこわいのです


自由詩 草迷宮 Copyright 未有花 2007-01-25 09:37:03
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