エルエスDay
李恵



僕の左手には有刺鉄線が巻きついている。
それはどこにつながっているのかわからない。
目の前には壊れたフェンスがあって
入り口を思わせるかのようにそこだけ蹴破られている。

左手を動かすと有刺鉄線が食い込んで痛みを与える。
けれど痛みよりも寒い。ここは寒い。
目を閉じているかの如くここは暗い。

フェンスの奥では煙が立ち上がり
白い煙は無数の人の苦痛の表情が見えた。
留まることなく精密機械のように苦悩の表情は流れていく。

僕が歩く。石を蹴飛ばした。
石ころが重力に逆らえずに下へ落ちていく。
灼熱のまぐまが下にある。
フェンスの先はガケだ。
ここは寒い。ここは暗い。


メトロノームの三拍子が聞える。

眠い。

目をあけると草が生茂っていた。

葉の上によじ登る。登れる。
僕は今蟻よりも小さいのだと考える。
どんなに歩いてもどこへも行けない。
どこに行けばいいかわからない。

僕より数倍もでかい猫はメガネをかけて踊っている。
「ここは危険だ」
猫はブラックホールのような黒い穴に身体を詰め込んで去っていく。

空を見る。
空にはうっすらと黒い線が走っている。
四角形の黒い線が次第に強調されて空が落っこちてくる。

猫が通りすぎた穴は徐々に小さくなった。
僕は通れる。だけどどんなに歩いても穴は平行に後退りをする。

僕は空に潰された。



僕の左手には有刺鉄線が巻きついている。
それはどこにつながっているのかわからない。
目の前に壊れたフェンスはなく不自然に立ち塞がるドアがある。



僕はただ眠かった。


散文(批評随筆小説等) エルエスDay Copyright 李恵 2007-01-25 01:47:47
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