家族(時速50キロの)
霜天

そのように、生きてみたいと願う
いつまでも二階より上の景色に臨めなくても
遠い車窓に同じ肩幅で揺れているだけだとしても


ノイズ混じりのカーラジオの表面に
透き通らない感情を混ぜている
会話はあちらこちらで反響し
誰に届いているかも分からなくなる
隣で眠る妹の、イヤホンから漏れてくる音程に
今日の感情の一片が、静かに侵攻を始めている

時速、50キロの
それが私たちにはぴったりだった


景色は流れるだけ流れると
気付かれないように巻き戻しを始めている
遠くへ行こう、と見ている空は大体同じようなもので
神社やお寺ばかりに立ち寄っては
何度も、何度も
何度も手を合わせた
何をそんなに祈ることがあったのか
考える深みは何処にも行けないままだろうけど

時速50キロで送られる私の家族の小旅行は
何を伝えることもなく
まだ見ぬ遠い景色よりは
いつか見た景色を目指して
巻き戻しをするように
一つひとつを、踏締めて


そのように、生きてみたいと願う
いつも変わらない景色の中や
いつまでも変わらない鼻歌のラインに沿うように


薄く閉めたカーテンの向こうで
口を開けて待っているもの
漏れてくる音程が何処までも明るければ
きっと
明日も巻き戻していける

時速、50キロの
私たちはそのように
いつまでも家族だった


自由詩 家族(時速50キロの) Copyright 霜天 2007-01-25 01:30:31
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