しあわせのメロディー
Rin.




夢よりも一歩、現実に近かったから
振り返ることはたやすかったはずなのに

もうお風呂にはいった?
という彼の、決して難しくもない問いに
眠りに引き込まれるにまかせて
わたし、答えなかった
ふとそばで寝息をたしかめるかのような
気配を感じてから、彼の
温度はバスルームへと遠ざかって
わたし、こころのなかでごめんと言った

シャワーの音がけっこう豪快で
いまさら声に出しても届かないかな
なんて思って寝返りを打ったら
シャワーの音が
ぴたりと聞こえなくなった
ぴたり、と

とめどなく溢れていたものが

ふいに止まって

無音の闇が

わたしを恐怖から遠ざけるように

今度こそ本当に

眠りに引き込んだ


目覚めたら彼は
昨日と同じしせいで
跳ねる毛先と戦っていた
涙がぼろぼろ落ちてきた
返事だって謝罪だって
いまからでもできる幸せに安心して
昨夜言いそびれた言葉よりはやく
よかった
なんて言ってしまったから
彼はとても不思議そうだった

よかった、今朝も
当たり前という奇跡が訪れて
毎日同じことの繰り返しだなとぼやく彼の
背中を思いっきり叩いてやった



















自由詩 しあわせのメロディー Copyright Rin. 2007-01-25 01:03:25
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