十戒
暗闇れもん

父は聖書を読んでいた
本屋さんの片隅の椅子に座り世間から隠れるように
家族から遠く離れていくように
哲学書の背表紙を意味もなく鳴らしながら
横目で父の姿を盗み見る

十戒を教えてくれたのは父だった
幼いころ暇さえあれば、アニメよりもモーゼを見ていた
アダムとイブが手にした林檎を食べてみたいと思った
罪の味を知りたかった
一刻も早く

神がエジプトの有力者の長子を殺した
エジプトの民を救うために

罪の無い子供の死が
親の過ちの責めを負った子供の死が
多くの民を救うためのわずかな犠牲

子を失う親の悲しみが民を解放する

弱い生き物でしょう
悲しい生き物でしょう

一刻も早くこの世の仕組みを知らなければユダとなってしまう









自由詩 十戒 Copyright 暗闇れもん 2007-01-25 00:35:19
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