フラグメンツ(リプライズ) #71〜80
大覚アキラ
#71
ありきたりな憂鬱に
絶望なんていうおおげさな名前をつけて
誰も見たことがないペットみたいに
かわいがって育ててんだろ
そんなのどこでも売ってるぜ
#72
やさしい言葉なんていらない
撃ち抜くような
叩きつけるような
突き刺すような
そんな言葉がほしい
焼きついて二度と忘れない
そんな言葉だけがほしい
#73
67歳になる親父が
心筋梗塞で倒れたので
病院に見舞いに行ったら
親父はベッドの上で
ナースといちゃいちゃしてた
お袋は給湯室で
泣きながらお茶を淹れていた
泣いているお袋の背中を見ながら
おれは親父のことを
ちょっとだけ軽蔑した
病室に戻ってナースをよく見ると
なかなかの美人だったので
おれは親父のことを
ちょっとだけ尊敬した
#74
メール送りました という電話
電話します というメール
伝書鳩飛ばしました という狼煙
狼煙上げます という伝書鳩
テレパシー送りました という手旗信号
手旗信号送ります というテレパシー
#75
いつか
ぼくが裁かれる日がくるとして
それでもきみは
ぼくの手を握ってくれるのだろうか
きみの手の温もりを感じながら
ぼくは
断頭台に上る階段を思い浮かべていた
空がいつもより青く見えた
#76
寒い町から来た彼女と駅前で待ち合わせ
約束の時間ぴったりに落ち合って
人波を泳ぐように逆行して
坂の途中にある薄暗いおでん屋に潜り込む
何が起きてもおかしくないし
何も起きなくてもおかしくない
少し酔いが回った勢いで
肩に腕なんか回したり
ちょっと赤くなった頬に触ったりしても
たぶん今なら許される
そんな曖昧なふたり
器の中にはすこし冷めてしまった大根が
曖昧なまま置き去りにされて
グラスの中のビールも
半分ほどの曖昧なまま残されている
時計の針は
終電にはまだかなりあるし
もう一軒というにはちょっと短い
そんな曖昧な時間
このまま何もかもぜんぶ
曖昧になってしまえばいい
何がなんだかわからなくなるぐらい
もっともっと曖昧に
#77
嘘をつくと
瞼がどんどん厚くなって
やがて眼が見えなくなりました
という嘘
#78
わたしのお墓の前で
泣いてください
泣いて泣いて
あたりがぬかるみになるほど
泣きつづけてください
やがて
あなたの流した涙で
小さな湖ができるまで
幾年も幾年も
毎日そこで泣きつづけてください
湖ができたら
あなたはそこに身を投げてください
そうしたら湖の底で
永遠にいっしょに
ふたりで暮らしましょう
#79
コンビニで
暮らしてみたい
プールで
暮らしてみたい
ジェットコースターで
暮らしてみたい
水族館で
暮らしてみたい
#80
逢えぬ辛さに
歯を噛み締めて
月の出ぬ夜は
奥歯が痛む
花びら散れば
涙も落ちぬ
五月雨
十六夜
花吹雪
絵の具の色の
雨の中
銀の御輿で
参りましょう
鈴の音響く
深い森
今宵の逢瀬は
叶いましょうか
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