祖母の肛門に指を突っ込んだ日
三州生桑

毎週末、私は長期入院してゐる祖母を見舞ふ。
今朝の祖母は、あまり調子が良くない様子で、口数も少なかった。
私は、いつものやうに、ポータブルトイレの処理をしたり、入れ歯を磨いたり。

一通り世話をし終へると、祖母は、おづおづと私に言ふ。
「痔の軟膏を塗ってくれんかねぇ・・・」
そんな頼みごとをされたのは、初めてだった。余程苦しかったのだらう。
「うん、いいよ」
私は快く引き受ける。
薄いゴム手袋を右手にはめ、ひんやりとした軟膏を中指に付け、祖母を横向きに寝かせ、おむつを下げ・・・。
「ここでいいの?」
と私が訊くと、祖母は、
「中! 中!」
と忙(せは)しなく応へた。
阿屎送尿(あしそうねう)、著衣喫飯(ぢゃくえきっぱん)といふ禅語が脳裏をよぎる。
「悪かったねぇ。ごめんねぇ」
「どうってことない。このくらゐ、僕でもできます」
祖母の機嫌は直ってゐた。

「それぢゃ、明日また来ますね」
病室を出て、エレベーターに向かって歩いてゐると、不意に佳い香りが鼻をつく。
ナースステーションのデスクの上の牛乳瓶に、水仙が数本活けてあった。
花は咲くべきところに咲くのだ!
私は、とてもすがすがしい気分になった。
もし私に孫ができたとして、その孫は快く私の肛門に指を突っ込んでくれるか知ら? 
そんな益体(やくたい)も無い事を考へながら、私は独り帰途につく。



http://www.h4.dion.ne.jp/~utabook/


未詩・独白 祖母の肛門に指を突っ込んだ日 Copyright 三州生桑 2007-01-21 08:18:58
notebook Home 戻る