焼餅と誕生日。
もののあはれ
珍しく田舎から餅が届いたので。
食欲は無かったが食べないのも申し訳ないから。
焼餅にでもしようと箱から三つばかし取り出し。
オーブントースターに並べて焼いたみた。
すると餅の入ったダンボール箱に紙切れが入っていた。
それは僕の誕生日を祝う短い手紙だった。
僕さえ忘れていた今日のこの日を
親は忘れずに祝ってくれた。
餅を搗いている年老いた二人の姿を想像すると。
僕はなんともいえない気持ちになり。
焼き上がった熱い餅をグイグイと口の中に押し込んだ。
押し込めば押し込むほどになんだか胸が苦しくなった。
僕は喉を詰まらせたのかほとんど嗚咽なのか。
よく分らないへんてこな音を鼻から発し。
自分を誤魔化すように更に焼餅を口に押し込んだ。
それはあまりに熱くて苦しくて可笑しかったので。
ついでに僕は妙に眠くなる薬の入った瓶を
力いっぱいゴミ箱の中に叩き込み。
コップに入れてあった水道水でゴクゴクと。
焼餅と鼻水とそれから僕の心の闇を
一気にゴクリと腹の中に流し込んだ。
それらはあまりに気持ちよく流れていったので。
よくは覚えてなんかいない筈なのに。
なんだかこの世に生を受けた瞬間と。
なんとも同じみたいな気持ちになった。
紛れも無く今日は僕の誕生日だった。