きみに向けて
銀猫

冬の雨が上がって
しっとりと潤った空気に
小さな蕾が目覚め始める

春と呼ぶにはあまりに早く
陽射が弱々しく届いて
蕾の外側だけがほんのり白く染まる

冷酷な北風には
他愛もない出来事
それを知らずか
窮屈そうに枝に並ぶ丸みは
繚乱を待っている

  春を見つけた
  微かないのちの芽吹きを
  きみに知らせたくなり
  薄翠の便箋に言葉を選べば
  並べた紺のインクが
  待ちきれずに滑り落ちて
  ワルツのステップを踏む
  
  愛しい、と綴れぬこころと裏腹に
  大きく円を描いて
  ふたりの空間が
  ひとつの風であるように
  踊る、踊る

冬の雨は上がって
凪いだ風に
蕾はほうっと息をつき
手折られるそのときを
夢見ている

きみに向けて咲く蕾、ひとつ




自由詩 きみに向けて Copyright 銀猫 2007-01-18 13:50:35
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