雪の記憶
愛心

小さい頃

雪っていうのは神様が落とした

宝石だと信じていた




人が亡くなって
魂が神様のところに逝く

また人間として生まれ変わるとき
人間だったときの記憶は
宝石の雪に姿を変えて
雲という名の宝石箱に入れられ
大切に保管される

ふるーくなってしまった雪は
宝石箱がパンクしないようにと
神様が一粒一粒大切に
ゆっくりと落としていった

雪は

宝石は

キラキラしながら
地面にとけていった




私は洗濯物を干そうとベランダに出た
ふと見ると
髪を腰まで伸ばした少女が
赤いコートに身を包み
晴天だった曇り空を見上げながら
嬉しそうに笑っていた

「ゆきだよ 
 ママ
 ゆきがふってきたよ」

私は自分に言われた訳ではないのに
「うん
 雪が降ってきたね
 神様が大切にしてた
 宝石が降ってきたね」
と呟いていた

少女の母親は風邪を引くからと
嫌がる少女を無理やり家に入れた

私は気にせず続けた
「ねえ
 何で雪が簡単に溶けちゃうか知ってる?
 それはね
 雪が魂の記憶だからだよ
 だから
 暖かい生きてる人に触れると
 『また生きたいなあ』って
 涙に変わっちゃうんだよ」
 


私は誰もいない外に向かって
小さな声で呟いていた

雪はまだ
降っている






自由詩 雪の記憶 Copyright 愛心 2007-01-16 19:12:30
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