祈りに関する情景
吉田ぐんじょう


夕暮れの遠くに霞む
四台のクレーン車は
輪を描くように向かい合って
なんだか
太古の昔に滅んだ恐竜の
弔いをしているように見える


朝に洗濯物を干す母親は
太陽に両腕を広げて
大きな十字架に
なってしまった
敬虔な気持ちでそれを見つめる
わたしの前に置かれた牛乳は
もう冷めてしまっている


深夜のガードレールに寄りかかり
うつむいて
メールを打つ若い女の子は
聖書を読む宣教師のように
背中を曲げている
彼女が巻いているバーバリーは
何かしら神聖なものを思い起こさせるような
きっぱりとした色で
はたはたと風に揺れながら
やわらかに彼女を守っている


悲しくなりたいときには
セルフ洗車をすることにしている
五百円でワックスまで掛けてくれるコースで
窓もドアもぴっちり閉めて
ミラーも折りたたんでしまって

待っているとそのうち
モップのお化けみたいなのが
豪雨を降らせながら通過し
車内は夜になってゆく
世界の終わりがきたような感じだ
ハンドルにもたれて嗚咽してみる
豪雨は止まない
少しだけ祈ってみる
おなかがぐうと鳴った
多分まだ
わたしは生きたがっている
そのことが何となく嬉しい

洗車が終わったら
ぴかぴかの車で
何か温かいものでも
食いに行こうと思った


自由詩 祈りに関する情景 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-01-16 17:15:59
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