入れ歯
茶釜

仏壇の奥から
じいちゃんの入れ歯が出てきた
まるで貝のようにぴったり重ねてあって
今にも「がははは」とじいちゃんの声で笑い出しそうだ
でもじいちゃんは小さい時の僕を
よくこの入れ歯でびびらせた

その、カパッと取れたぜったい取れるはずのないものが
今にも僕に噛み付きそうな感じと
人相の変わってしまった別人の人の登場に
頭がパニッキになって、いつも泣きそうだった、
そしてから
専用の歯ブラシを出すと
別人のじいちゃんは
見覚えのあるおわんにお湯を入れて
自分の一部をふがふが息をしながら洗い始める
ふがふが、ごしごし
ごしごし、ふがふが
世にも不思議な光景だった

洗い終わったあと
そのおわんのお湯をどうしていたかまでは
記憶にないが

とにかく気持ちよさそうに
その綺麗になった入れ歯を
カセットテープでも入れるように
かちゃかちゃっと知らない人の口にはめると
そこには正真正銘のじいちゃんがいた。

人をあんなにも変身させる事の出来たこの入れ歯で
変身できる人はもう何処にもいない


仏壇の奥からも
変な顔の人は出てきてくれなかった


自由詩 入れ歯 Copyright 茶釜 2007-01-15 18:51:11
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