ワケもなく泣くぼく
望月 ゆき

ワケもなく泣けてきた


ワケもなく泣けてきた
と、言ったのはどこか嘘で
きっと なにかあったのだ
ぼくがそれを認識していないにしても


ドラッグストアでもらった風船が
靴のひもを直そうと
かがんだすきに 逃げていった
ぼくの指をするりと抜けて


この感覚
どこかで たしか
この するりと抜けていく感じ
なにか 大切なものが


大切なものならば
ぐっと手に力を入れて
決してはなしてはいけないよ と
ずっと昔に大人たちが教えてくれたのに


そのとき教えてくれた大人たちも
きっと 数え切れないくらい
大切なものを失っていたのだろう


そして そのたんびに
つぶやいたに違いない
ワケもなく泣けてくる と
こんちくしょうな涙を流しては


そんなことを一瞬にして
考えながら
ワケもなく泣くぼく


ワケもなく 泣くぼく


自由詩 ワケもなく泣くぼく Copyright 望月 ゆき 2004-04-06 21:27:41
notebook Home 戻る