じいさん
ごまたれ

僕は簡単に逃げ出す性格だ。

そして薬を飲んで
簡単に死んでしまったみたい。

気が付けば
真っ白な雲の上だった。

あらら。
マジで死んじゃった。

頭をポリポリかいてると
鼻歌が聞こえた。

振り向けば
白いひげもじゃのじいさん。

一枚の白い布をまいただけのような
そう
分かりやすいぐらいの
神様。

じいさんが僕に気が付いて振り向いた。

「あれ、もう来ちゃったの。」

じいさんは驚いたように白い眉毛を上げて
こっちを見上げた。

「お前さん、ちと早いなぁ」

独り言のようにじいさんはぼやいた。

「でも、人生に疲れちゃったんだよ。」

僕がそう言ったとたん、
じいさんのちっちゃな目が丸くなり
そして愉快そうに声を上げて笑う。

「お前さん、まだ人生の『じ』の字も歩いとらんわ」

カチンときて反論しようとしたら、
じいさんはビシっと
僕の顔の前に人差し指をたてた。


「今はまだ暗いトンネルなんじゃ。
そこを抜けたときの明るさぐらい、
お前も知ってるだろう。」


じいさんが遠のいてゆく。

やがて
眠るときのような闇が訪れた。



夢だったのかと思い、
僕はベッドから体を起こした。
でも 飲んだ薬の瓶は
蓋が外れたまま転がっている。

ポリポリと頭をかいた。

やがて
僕はぼんやりと思った。


確かに
僕は簡単に逃げ出す性格だ。


でも、
あのじいさんには
負けたくねぇなぁって。








自由詩 じいさん Copyright ごまたれ 2007-01-13 00:48:07
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