もう一度だけだべてみたいあのホットケーキー
ジム・プリマス
子供の頃
僕の住んでいる街に薄汚い工業都市だったけど
老舗のデパートが一軒だけあって
母に連れられて買い物をした後で
いつも階段の下の小さなフロアーにある
赤い看板のスタンドに立ち寄るのが
慣わしになっていた
四、五人分のカウンターしかなくて
そこにいくといつも母はコーヒーを頼み
僕はいつもホットケーキを頼んだ
ちょこんと座っている僕の前で
蝶ネクタイを締めて腰から下にエプロンをしたマスターは
よく手入れされた真っ黒なフライパンを
大事そうに清潔な布巾で何度も何度もふき取り
そして火にかけたその真っ黒なフライパンに
冷蔵庫から真四角に切ったバターを載せて
菜箸でまあるく広げて
冷蔵庫から真っ白な布巾をかぶせた
白いエナメルびきのボールを
まるで宝物を扱うみたいに大事に取り出して
その中からお玉で薄い橙色のタネを
これまた魔法のようにふわりっとまんまるくフライパンに載せる
するとこれがまた本当に魔法のようにふんわりと広がって
膨らんだホットケーキーのたねは
真っ黒なフライパンにパンパンの大きさになる
それが計ったみたいに正確で
僕はその一連の工程をわくわくしながら眺めている
しばらくするとマスターは
また魔法使いのようにポンとフライパンをはたくと
ホットケーキーは正確な輪郭で白く縁取られ
真ん中だけが薄い狐色に焼けているんだ
そして焼きあがったポットケーキーをするっとお皿に移して
僕の目の前におくと
また冷蔵庫から真四角に切ったバターを
焼きたてのホットケーキーに載せてくれる
小さなカップに入ったメープルシロップをいっしょにそえて
これが蜂蜜じゃだめなんだ
砂糖を焦がして少し褐色になっている
ほんのり苦いメープルシロップじゃないとね
これが僕が知っている本当のホットケーキーなんだ
夢にまで見るんだけど
大人になってからあのホットケーキーに匹敵する
ホットケーキーにはまだめぐり合ったことがないんだよ
でもあのホットケーキーを食べたことのある人なら
みんないうと思うよ
ホットケーキーにはあのメープルシロップだって
あのマスターはもしかすると本物の魔法使いだったのかな
もう一度だけだべてみたいあのホットケーキー