三人姉妹
佐々宝砂

三人姉妹なら
オリガにマーシャにイーリャだろうが
私はオリガではない
ぜーったいに女主人なんかではない
マーシャでもない
私は結婚に幻滅してはいない
だがよく考えてみりゃ
イーリャ
であるわけもねえや
私が二十歳だったのはもう十ン年前さ

でも私は三人姉妹のひとり
嘘じゃないよ三人姉妹なんだ
桜の園はないけど花咲く庭を持ってる
手入れはあまりよくないけどタンポポが咲く
ムスカリが咲く
天人唐草(絶対ほかの名前じゃ呼んでやらない)も咲く
そのうちわすれなぐさも咲く
スミレも咲く

オリガではないお姉様が水と種をまく
マーシャではないお姉様が土を耕す
イーリャではない私は何をしたらいいかわからなくて
訪れる野鳥たちにりんごのかけらを投げてみる

新しいスタイルを
新しい生活を
新しい言葉を
私たちにください

三人姉妹ではない私たちは
桜の園ではない庭で
静かに泣きながら抱き合って
どこにもないモスクワをゆめみているが

まなざしは前を向いている
そんなまなざしは無意味だと
あなたは言うかもしれないが
私たちは前を向いて生きる

なにしろ私たちは
オリガではないし
マーシャではないし
イーリャでもないけれど
三人姉妹なのだ
三人姉妹は絶望を知らないのである


自由詩 三人姉妹 Copyright 佐々宝砂 2004-04-06 02:30:19
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