平野
「ま」の字
柔らかく 昏い光が
ひっそりと漏れだしたように
わずかに傾斜した平坦な地の
襞に、影
鉦がきこえて
列がゆく野は
さびしい海にむかって開けていった
或るひとつの手の
美しい指が
白鍵のうえを息せき切って破顔しひらめいていったとしても
結局は黒鍵上に湧き上がる
暗い低音は要請される
薔薇の花で埋まった手箱に入れられた
硬くちいさなトゲのように
この
小さな時間を支えている
点
そうやって
昔レオナルドが描いた戸外でピアノを弾きつづけるけれど
そろそろ君は
顔が見えなくなる
密やかにゆるめられる
低音