いもけんぴとホットミルク
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ずっと不安だったんだ
こうなるんじゃないかって
分かってた

何にも覚悟してないのに
努力とか、苦労とか、してないのに
いきなり幸せごっこなんて
贅沢過ぎて
そんなわけないって

いつかくる
その日に備えて
こういう場合はどうすればいいのか
シミュレーションしてきたから大丈夫
あらかじめ
悲しんでおいたから大丈夫

君が日常から消え去っても






目覚めて冷静な自分がおかしくて
ちょっと笑った
今日もちゃんと働けそうだ
いつもどおり

指輪を失った指が軽い
通勤中の電車では
前よりも異性の視線が気になっているみたい
よし、わたし、たくましいぞ
大丈夫

夢中になって働いた
ぼーっとする暇を作らずに
帰り際
先輩に呑みに誘われたけど
また今度と断った
「なんか今日、元気ないみたいだったから。」

そう言われたとき、ちゃんと笑えていたかどうかは分からない


君に「ファッションとかよく分からないけど」
変だと言われたお気に入りのコートは
襟が凄く大きくてマフラーを巻けない
ただの夕暮れや雨に負けて
泣いてしまう人がいると言うけど
生まれて初めて
なんだかそんな気持ちが分かる気がした
首元を通り抜ける風と
駅前のカフェの窓ガラスに映った自分の顔で
わたしは我に返る
そしてまっすぐに家に帰る
いつもより少しだけゆっくり歩きながら

鍵を開けて部屋に入ると
玄関に
自分の靴しかない
それを見ないように急いで
エアコンをつける
灯油のストーブも

昨日
まさかこんなことになるとは思わずに
君と食べようと思って開けた
いもけんぴがまだ
テーブルの上に置きっぱなしだ

手洗いうがいちゃんとして
レンジでホットミルクを作る
コートを脱ぐと
君の指のかわりに
静電気で髪の毛が顔に張り付いた
ストーブに手をかざして
電子レンジのメロディを待っている

いもけんぴとホットミルクの組み合わせって最高よね
テレビをつけて機敏にかじりつく
勢い余って口内に突き刺さって痛みが走った
さっきのなし!さっきのなし!って念じたけれど
間に合うわけがないよ
もう、遅いんだ
しばらく呆けたように口を開いたまま固まった
あと
産卵中のウミガメのような表情で
顎に皺を作り鼻から大きく息を吸い込んで



やっと、泣いた









自由詩 いもけんぴとホットミルク Copyright ________ 2007-01-08 21:02:21
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