焦燥感
吉田ぐんじょう

どうやら焦燥感
と云う一種の熱病にかかってしまったらしい
くるったように息を切らしながら
朝から晩まで自転車で
ぐるぐると円を描きつづけている
進むのは
まっすぐでなければ
どこにも行き着けないのに
目的を紛失した為か
一向に止まれないのである

次第次第に
スピードは速くなってゆく
わたくしの通った跡は燃えて
ぢりぢりと冬に陽炎をたてる

走りつづけるわたくしの
汗ばむ背中を
抱きすくめて
止めてくれたのは誰だったろう
若しかして
自分の影だったのかもしれない
なつかしいにおいがしたから

お医者で処方された薬は
途方も無く冷たくてまずいので
内緒でカプセルをひらいて
中の粉薬を排水溝に
全部捨ててから
噛み砕くことにしている
薬の入っていないカプセルは
なんだかはかない味がする

昨晩から電柱の陰で
わたくしと同じように
くるったように回りつづけていた猫が
今朝死んだ
と確か
近所のおばさんが言ってた




未詩・独白 焦燥感 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-01-08 18:01:07
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