種々の理由
吉田ぐんじょう

左手しかポッケットに入れられないのは
右手で傘を持っているためで
少し泣きそうな顔をしているのは
暗くなると君を思い出すからである

急ぎ足なのにけして駆け出さないのは
帰り道の途中に墓場があって
墓の前を走ると呪われる
と云う小学校のとき聞いたジンクスを
今もって信じているからだし
時折たちどまって眼をとじるのは
自分の名前を思い出すためだ
そんなに長くはたちどまれない
世界が消えてしまいそうでこわい

わたしは一度だけ振り返り
自分の名前をポッケットで握る
そうして
傘をさしたまま喫煙するのにはどうしたらいいか
思案しながらまた歩き出す
足音が空気に刻み付けられ
眼の前が白く濁ってゆく

しばらくしたら
やっぱり君を思い出して
涙が出たので指でぬぐった
こういうときのために
普段から手袋はつけないようにしている



自由詩 種々の理由 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-01-06 17:35:15
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