黄色の憧憬−デッサン/前田ふむふむ
Rin.さんのコメント
>——孤独な街灯は消えかけている。雨はもう見えない。

ここが美しく決まっていて、一見そうではないように見えて、詩の軸の役割を見事に果たしているように思います。


>時間を持たない海は、美しく、父は、
>黄色く霞む霧の彼方を歩いていると微笑んでいる。

>あなたは、朝焼けのレンタカーに乗って、
>新しい地平線をつくるだろう。
>行き先をもたない伝書鳩のように、
>いつまでも止まることなく。

>海鳴りが、母の細い足音を奪った。
>わたしは、父の言葉を盗んだ。
>それを鳴かないかもめだけが知っている。


ここも素敵ですね。もちろん前振りがきちんとなされているからこそ輝いているのでしょうけれど、これだけでも充分一編の詩になりうる重厚さがあると思います。

タイトルで「黄」と出ていて、詩の中でも黄色やそれを思わせる言葉がたくさんありますが、もしタイトルがなかったり、違ったものだったとしたら、熱い大地の色のような印象が強かったと思います。それだけ「八月の鮮血」「朝焼けのレンタカー」の表現が鮮烈だったのかもしれません。

今回は内容から入るというよりは、言葉の表面から触れるというような読み方になったかなと、自分では思います。それは多分、自分が詩や短歌を以前よりも感覚だけに頼らないで作ることを考えるようになったからかもしれませんが、もう一つに、ふむふむさんの選ばれる言葉に、以前よりもなめらかさが出てきたのもあるのかと思います。以前は複数の静止画を静かに並べた、いわゆる美術館のような、詩で絵を描くのがふむふむさんの作風のような感じがしていました。ですが、これは動きを感じますね。