すべてのおすすめ
安売りをしていたので
星をひとつ買った
命名権付きということで
相応しい名前を小一時間考え
以前飼っていた犬の名前をつけた
部屋の電気を消すと星は仄かに瞬いて
偽物みたいに綺麗だ ....
バスに乗って目を瞑ると
私の中を通過していく
一台のバスがある
開いた窓から
誰かが手を振っている
懐かしい気がして
手を振りかえすと
バスは小さな魚になり
泳いで行っ ....
人が笑っている
マユミが笑っている
マユミは母
オサムは父
オサムは死んでいる
首を洗って待ていろ、と
テルヒコに言われ
二十年、首を洗って待ち続けた
首だけがただ
....
水のない駅でした
蝉の音がしました
産まれた日もあやふやなままに
服の端が揺れて
私たちは何か話をしました
並んでいました
指を伸ばせば届きそうなほど
影になるとすべ ....
雨が降ってきた
それに加えて午後からは
槍まで降ってきた
雨が降ろうが
槍が降ろうが
必ず行くよ
と言っていた友人は
終に来ることはなかった
窓を開けると
代わり ....
砂漠の真ん中で
洗濯機が回っている
インド綿のシャツを着た官吏が
時々中を覗きにやって来る
飛行機が上空を通過する
やり場のないコウモリ傘や
目新しい嘘を乗せて
真夏日 ....
ページを捲っていくと
その先に
廃線の決まった駅がある
名前の知られていない従弟が
ベンチに座って
細い背中を掻いている
とりとめのない
日常のようなものは延々と続き
梅雨の晴れ ....
味噌汁の中をラクダが泳ぐ
どんなに泳いでも
沖などあるわけがないのに
僕はボートに乗って
ひたすら豆腐を網ですくう
今晩の味噌汁の
具にするために
いつまでこんなこと ....
アパートに似た生き物が
背中を掻いている
古い窓を開ければ子供の声が聞こえ
秋の風も入るようになった
父が死に
母が死に
君は僕と同じ籍にいたくないと言った
もう昔みたい ....
昆虫が窓を開ける
五月と
そうでないものとが
出て
入って
混ざり
離れる
言葉の中で
空はまだ
青く
美しいのだ
日用品と
出来立ての虹を買って
君が帰ってくる ....
父は会社を辞めて
小さな薬局を経営していた
母は近くの
ガソリンスタンドで働いていた
僕が社会に出る頃には
薬局もガソリンスタンドもなくなって
父と母だけが残った
僕の仕事は ....
キリンが首を伸ばして
夜空の星を食べていた
星がなくならないように
父は星をつくった
どうしてキリンが星を食べるのか
なんて関係なかった
父はただ星をつくった
やがてキ ....
小銭を持って忍び込む
生臭い二つの身体で
薄汚れた僕らの下着は
日々の生の慎ましやかな残渣
死に対するささやかな抵抗
乾燥機をかけよう
余計な水分が
涙にならないよう ....
高い高いをされてる時が
一番高い時だった
何よりも誇らしい時だった
もう僕を持ち上げられない父が
故郷に帰る段取りを心配している
ぶつぶつとうわ言のように
出鱈目な記憶を繋ぎ合 ....
独りさすらう俺の体を
降りだした雨が切り刻む
切り刻まれた俺の体は軽く分裂する
でも心は切り裂かれないから
浮いたまま
雨に打たれても
俺の心は乾いちまってる
おまえがいな ....
埋立地から旧市街地へと
続く大通りの歩道
差し込む光に
かつて名前はあった
気の弱い人たちが
背中だけの会話
背中だけの時間
の中でうずくまり、
息継ぎし、
そし ....
僕は東京にいて、それから
ドラッグストアで
風邪薬を万引きした
一度に二錠しか飲めないのに
間違えて三錠飲んだ
健康に何かあってはいけないと思い
布団に入り
ハーモ ....
父が釣りをしている
何を釣っているのか聞くと
忘れたと言う
僕も隣に座って糸を垂れる
息子とよくいっしょに釣りに行ったもんだ
という話を皮切りに
父が息子の自慢を始める
小さいころ ....
ひし形の歪んだ街に産まれて
時々、綿菓子の匂いを嗅いで育った
弱視だった母は
右手の生命線をなぞっている間に
左耳から発車する列車に
乗り遅れてしまった
毎日、どこかで ....