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ピアノ協奏曲第2番が流れていた
雲の切れ間から射し込む くぐもった冬の陽は
積み上げる書物の埃を 頼りなげに
浮かび上がらせて ストオブの気流に乗せた


この部屋に 何年いたのかな? ....
風の止んだ朝 林は広くなって
生まれたばかりの顔をした 陽ざしが
汚れ果てた落葉を 白いレエスで隠す
あなたが霜柱を踏む 乾いた音


リズムは不規則で 頼りなく
不自由な足が もど ....
ゆらめくキャンドルの炎
白い妖精が舞いおりる街
鐘の音を流す教会
はじめての聖夜

コートのポケットで手をつないで
石だたみの坂道をのぼった
華やいだ街角に仲間たちを残して
ふたり ....
堆く積まれた 書物は昔のままに 
午後の斜光に 照らされた埃の層は
舞い上がることもない 部屋は死んでいる
窓ガラスは乾いた風に ことこと揺れる


紙魚が食べた詩集には 空洞になった ....
狸の死骸を突いている鴉は
国道の真ん中で ダンプに踏み潰される
黒い羽は飛び散って
自分も狸と同じように 一塊の肉になる.


通り過ぎる助手席の婦人は 眼を背ける
汚らしい物を見て ....
「その紙に書いて…」
ぶっきらぼうに言った
彼女の横顔は デジタルに
その上 形而上学的に

LEDに代わった信号は
きっぱりと 黄色から赤に変わった
車のウィンカーだって 余情なく ....
死んだ犬の名前を呼んで 秋の夜
泣いているのは 初老の男の独り暮らし
妻が亡くなり 娘は家を出た
錆び付いたぶらんこは 荒れ果てた庭に 


2階のヴェランダには 溜まった土埃に
埋 ....
刻まれた目盛りの 一箇所に
あたしは基準点を作っている
それ以上だったら しあわせ 満足
それ以下だったら ふしあわせ 不満


ものさしは
あたしが作ったものじゃない
あたしが作 ....
静謐だった森が ざわめき始める
築いている壁の 空だけで繋がった向こうで
錬金術師が 花火を打ち上げる
賑わいが 壁を越えて 壁を通り抜けてくる


あたしの心を鎮めてください
立ち ....
柔らかい悲しみは 降り積もる
落ち葉に埋もれて 腐敗の暖かさに
林の樹木は無頓着に 日々を紡ぐ
自然な 季節の移ろいに 滑らかに


回転運動の 単調な繰り返しに
追随して耀く 儚く ....
「こんなとこにおったら,殺されてまうわ」

自覚症状のない患者は 大抵こう言う
痛くもない腹を探られるような 不快感
PCが作った断層映像など 何の説得力もない
説明すればするほど 脅し ....
白い萩の花は 秋雨にうなだれて
庭の隅には 夏蝉の死骸が朽ちて
宛名のない手紙は 燃やされる
薄い紫の煙が 竜胆の花と混ざる


黄金色の思い出に 溺れて沈んだ
綺麗なものしか 見え ....
風が止んだ 窓に凭れている月光
まるくなった猫の瞳に 映る洋燈の揺らめき
一枚の油絵から 零れ落ちる泉のしずくが
なめらかに滑り落ちた 鍵盤の上


都会のざわめきは遠く 静けさに
 ....
大正生まれだった祖父が
復員してきた時 涙を流した
巻き鍵をお守りに持って 出征した
古い柱時計 曾祖母も大叔母も涙を流した


父は物持ちが良く
ガラスが黄ばんだ腕時計を
引き出 ....
畦道は緋毛氈 緩やかに
尖っていた葉を 柔かな色に変えて
稲穂は黄金色に 垂れた頭が揺れる
埋もれてしまえば 高い空はあの世へ


お寺へ続く 暗い石段の両側で
「死人花」と嚇された ....
年老いていく 秋は黄昏の川に
燃え残った夢の残骸は 流れて
それでも 生きなければ ささやかな
喜びのために あてにはならない


忘れられた郵便ポストに 投函した
出しそびれた手紙 ....
水絵具で描いた 月の光
宵待草の恋は セピアの思い出に
茶色い時代の かざぐるまが回った
夜店の裸電球に くっきりと影を作って


夏が去っていく 風と花を連れて
公園の片隅に ぶら ....
「夏風邪,気いつけや」

マスクをしたあたしに
チューブだらけの 彼が言った
ぶっきらぼうに 頼ってくれた
無愛想さも 衰えていく 痩せた腕

二つに引き裂かれそうだ
「先生,顔色 ....
透明な木漏れ陽が ころころと
転がっている 密やかな苔の森に
生を終えた 蝉が仰向けに凝然と
夏の終わりは こっくりと乾き始めた


風が流れて 何かを囁いて過ぎた
手を繋いでいたよ ....
突然の夕立が 
アスファルトに湯気を立てて 
逃げ込んだ バス停の屋根
あたしはスカートを拭いていた


飛び込んできた
雷の音と いっしょに
きみの白いカッターシャツ
どきどき ....
布団は ばあちゃんの香りがしている
少し脚が不自由だけど 元気で
働き者のばあちゃんが干しておいてくれた
布団は日向の香りが充満している


ばあちゃんは もう年だから
同じ話を ....
小さな青い駅で
列車を待っていた
朝の図書館に出かけて
行き先を調べてきたのに


真鍮のカランに しがみついている
蝉の抜け殻を見つけた瞬間
どこが あたしの行き先なのか
分か ....
透明な大気に満たされていた
谷あいの小さな あの村に
あたしの夏は いつも帰っていった
斜面のトマト畑で 見上げた空に


悲しみはなかった 日暮れの蜩の声にさえ
秘かに憧れていた  ....
街の喧騒に負けないように
大きな声で叫びつづけた
まわりが大急ぎで進んで行くから
似合わない早足で歩きつづけた


聞き流してきた やさしいささやき
見過ごしてきた かわいい野の花
 ....
牛が草を食む音が 聞こえてくる
静かな午後の平和に 仔牛は乳房に寄り添う
サンエチエンヌの草原で 見渡している
あの日 旅する雲は東へ アルプスを越えて


熱に浮かされたような 隊列 ....
国境に近い南の町に続く
砂埃だらけの道を
重い荷物を担った
若い兵士たちが行く

きみのしあわせは
ほんとうにそんなところにあるの?

きみが持っているはずの
すばらしい力や瞳の ....
街灯は 歌いもせずに
夜のムフタール通りへ
きみは行くべきじゃない
と 投げ捨てるように言う

ホテルの玄関で
前脚にギプスをした猫が
にやっ,と笑った気がした
ちょっと不敵な眼
 ....
かららん
ころろん

約束してた夏祭り
浴衣の帯は苦しいけど
少し急ぐ下駄の音が好き

髪をあげた少女の瞳に映る
裸電球のあこがれ
くっきりと 影法師が揺れる

うす暗闇で手 ....
夜が明けたよ
夜更けまで降っていた
淋しい雨も いつの間にか上がって
ギャラリーの軒下に逃げていた鳩たちが
ライオンの頭に集まり始めた

いろんなことがあったんだよ
いわれのない憎悪 ....
なだらかな丘を映した 湖はのどかで
ラズベリーのいばらに 縁取られた小径で夢見た
ふと目で雲を追う詩人のこころには
気の遠くなるような 循環が刻まれていただろう

自然などという言葉が  ....
夏美かをるさんの藤原絵理子さんおすすめリスト(117)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
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発条- 藤原絵理 ...自由詩14*14-9-22
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