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ちいさな雲を
いちまい、いちまい、風が縫って
空に真っ白な衣を着せている
あそこへ往くの?
問いかけても
もう動かない唇は冷たく
ひかれた紅の赤さだけが
今のあなたとわたしの今を
....
まあるい泡を
ぷくりと吐いて
そっと寝床を抜け出す
水の流れは
暗いぶん少し冷たい
おびれとむなびれ
ぷるぷる舞わし
水草の間から
夜の空を見上げた
真昼の水面を
きらきら照ら ....
続いた雨の音階は消え
訪れた静かな夜
問うこともせず
答えることもなく
過ぎてゆくだけの影に
狭くなる胸の内
満たしていたもの
耳に慣れた雨音と
肌に馴染んだ湿度と
それらの行方 ....
風が、やんだ
鳥の声を探して
下草に濡れたのは
迷い込んだ足と
慰めの小さな青い花
遠ざかっていた場所へ
私を誘う手は
湿っていて
それでいて
優しいから
触れたところから ....
夜にまぎれて
雨をみちびく雲の波
朧気に月は
触れてはいけないものがある
ということを諭すように
輪郭を無くし遠退いてゆく
深く、
深く息をして
雨の降りる前の
湿った空気の匂い ....
いまここに
来たるべき夜の紺青は
誰しもの
奥深くに眠る
逃れられない
悲哀の色をして
春はいつのときも
悲しみ覚えたかたちを
おぼろに映すから
すこし涙もろくなる
さ ....
あれから
いくつ春を
数えたかしら
わたしの中に眠るあなたは
春ごとに目覚める
黒と白の斑尾模様の猫が
出迎えてくれた細い路地
人の気配が消え
静まり返った石畳
入り組んだ奥 ....
東の空が明けるころ
あなたはまだ
真綿の中で眠っている
朝の日のひとすじが
あなたの頬を
さくら色に染めて
はやく春がみたい
と言ったあなたよりも先に
春をみた