空いた
椅子の上には
ゆうぐれが降っていて
絵描きになれない風たちは
せめてもの代わりに
言葉を混ぜて
去っていく
取り残された場所に
おそらく施錠は
必要ない
....
水死体すいしたいって言ってるけど避妊すべきか考えている
水族館すいぞくってだれだろうできればぼくを愛してほしい
てつさびのにおいがするねむかしわたし植物園で死んだとおもう
雨のふる遊 ....
小蠅を優しくつぶした
初めての五十匹目です
ひとさしゆびの先端で
薄い壁の向こうがわの
恋人も眠り続けたまま
サンダルの隙間に砂が
ちくっとしたことを思い出す
切腹よりも
....
できる
けどしない
あなたは
わたしに
なんでも
けど
しない
出棺を待つ君は安らかな表情で
首筋にあるべき索状痕は目立たぬよう化粧を施され
凄惨な最期を遂げたようには見えなかった
呼びかければ目を覚ますのではとか
冗談が過ぎたかな
頭を掻きながら棺 ....
青らむ、夏の
わたしの首すじ に
風がひそかな挨拶をおくる
揺れやまぬ草の穂先のいじらしさ
痺れた指でもてあそびながら
あなたのことをかんがえる
青らむ、人の
まなじりの ....
「もう、電車に乗れない。かもしれない。」
「どうしよう」
吊皮
を、
握って、下見たら、青色の液体で埋まってたんだ。
ブルーシートみたく青色で
ブルーシートよりずっとなめらかで ....
・
午後四時
青の上から
橙や赤や紅色が
塗り重ねられてゆくのを見ながら
大急ぎでベランダのシーツを取り込む
あのうつくしい仕事をしている人が
どんな人だかは知らないが
時折
ゆるめ ....
｛引用＝みずうみを およぐ
底から数センチ上、
ひとたまりも なく
ひとは 笑うかもしれない
ぼくは無力 だと
ぼくも 知っていたから
あきれることも なく
ただ 光を 見つめる ....
・
夫があまり鋭く見つめるから
わたしはしだいに削れてゆく
夫と婚姻関係を結んでからのわたしは
もう余程うすっぺらくなったらしい
強く手を握られると
きしゃり と指ごと潰れるから
か ....
?
加速を付けようとする度にガタガタと揺れる高崎線
高速で惰行運転に入っても細かい振動は収まらず
それは日常にはありえない乗り心地で不安で
あまりに快適な運転に馴らされて居たことを知る
....
自分の名前が
しっくり来なくて
他人事のように生きてきた
しっくり来てる
他人の僕は
どこか別な世界で
名前のように
生きてることだろう
いろんな春があった
それなのに
....
台所の窓から見下ろす 校庭が白く染まって
摘みとった記憶まで見つけてしまいそうだ
ふとももにあたるスカートの襞 湿り気を帯びた木の匂い
犬走り 紋白蝶 遠くのポートタワービル
木漏れ日が ....
昨夜からの強風で
停まってしまったモノレールの車両が
ホームを離れた線路の下に
ぶら下がっている
一月前、自ら途中下車した
君の人生のように
骨壷の前に坐り
遺影の君 ....
たどり着いたとき
足元は
遠く、離れて
それはたとえば
風船に追い抜かれたり
迷子の小さな声が
群集で掻き消されたりする
午後のはなし ....
音も無く
特別な体温は過ぎ
今は、ここは
「ふゆ、」
という
息と
(さよなら、)
という
息と
＊
ただの息
と化す。
....
わたしは宇宙船です
分厚いドアです
小さな窓です
銀の屋根です
（空になったタンクを捨てて
（身軽になるんでしょ？
（生きるために
わたしは宇宙船です
緋色の闇です ....
彼岸の頃になると
その場所は
真赤に燃えるようでありました
急な勾配の細い畦を上れば
今来た道を遠くまで
見渡すことのできる墓所
形を成さない朽ちた石版と
名も読めぬほど苔むした石碑 ....
肌をすべる泡が灰色に変わりはじめ
見下げて
乳房から続く白い曲線や
つま先の綺麗な花色に
絶望する
口紅を塗らないのは
ちいさな爪を伸ばさないのは
この隙間を
みつけてほしいんだと ....
大方忘れてしまった、夢みたいに儚い時間
そんな空気の層が降り積もって空は青く映るのです
毎日は透明な膜が抵抗感をつくる海のそこです
ときに日が陰り砂の底に埋もれてひとりぼっちになったり、
....
もう
すっかり冷めてしまおう
コーヒーポットが
かたかた笑う
もう
すっかり冷めてしまおう
何もなかった と
信じていよう
何も感じない
わたしになろう
どこにも行かな ....
1 2