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「はっきりした病気でよかったわ」
すでにベッドに張り付いてしまった彼は言った

顔のつやも申し分なく
話すことも、普段どおり
少し皮肉っぽい物言いも

ことさら普通にしようとしている
 ....
犬と歩いていた畦道
蓮華草の洪水、うららかな風
晩春の自然は生命を礼賛していた

突然、犬が強く引っ張る
そして、嬉しそうに吠える
畦道の行く手に
冬眠から覚めた蝮が横たわって
ぬらぬ ....
梅雨の晴れ間に、ひときわ
紫陽花は朝陽に輝いていた、その朝

報せの電話が真夜中に鳴った
冷静と言えば、聞こえはよいが
私の応対は驚くほど事務的であった
どこかに、安堵が潜んでいた

 ....
曇った朝
「力、出すことだけ考えや」
車を降りる息子に声をかけた
「うんうん」
曖昧に頷きながら改札に消えた

重い病気で
1年を棒に振った彼は、ある日
「フリーター」、と自嘲して泣い ....
煮た竹輪と梅干
飯には煮汁が染み込んで
みっともない模様を描いていた

蓋で隠しながら
弁当を食った
級友に見られるのが
たまらなく恥ずかしかった

日曜日も休むことなく
ミシンを ....
埃っぽい飛行場を飛び立ったら
もう、さいなら、ってな気持ちや
任務なんやからな
二階級特進の恩給が
後は、なんとかしてくれるやろ

しやけど
あの勲章どっさりつけた
偉そうなおっさんら ....
コーヒー豆を煎っている
剥けてくる薄い皮を丁寧に
吹き飛ばしながら煎っている

誰かのためでもなく、自分のためでもない
ただ美味いコーヒーになるように
細心の注意を払っている

窓から ....
濃密な生気に溢れた暮色
童女の細い眉は西に沈んだ
夕映えの桃のその向こう

故郷は消えようとした
風は何も語ることなく
不意に吹いては運び去ろうとする
置き場所のない甘い記憶を…
それ ....
私は部屋を作った
始めた頃の記憶さえ霞むほど
長い長い時間をかけて
がらんとした真っ白い部屋

いろんな場所に出かけて
美しいと思った光だけを集めたら
真夏の南中した太陽の光に似た
真 ....
再就職先の紹介をした知人に
立派な菓子折りをもらった

上用饅頭が詰まっているものと
内心ほくそ笑んだが
上品な包装を開けてみると
見事な上げ底であった

しかし
饅頭を取り除けた底 ....
イナエさんの山部 佳さんおすすめリスト(10)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
見舞い- 山部 佳自由詩314-6-9
畦道にて- 山部 佳自由詩8*14-6-2
紫陽花- 山部 佳自由詩1114-5-22
試験- 山部 佳自由詩814-5-14
弁当- 山部 佳自由詩1114-5-12
自決- 山部 佳自由詩1014-5-1
泣いた赤鬼- 山部 佳自由詩914-4-24
寂寥- 山部 佳自由詩314-3-8
穏やかな日- 山部 佳自由詩614-3-1
饅頭- 山部 佳自由詩814-2-24

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