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函館山の{ルビ麓=ふもと}で腰を下ろし
遠い山間から、昇る
夜明けの太陽に瞳は滲み

ぼくは呟く。
――ほんものになりたい、と。

積丹半島の神威岬に、独り立ち
遥かな楕円の水平線に、 ....
遠い山々の緑がくっきり浮かぶ
夜明け前
烏等は唄を交わし始める。

旅の宿の眼下に広がる風景
明るみゆく教会の隣に
洋風の家があり
朱色の屋根の下に
昔――亀井勝一郎という
文士がい ....
あの頃、彼の人影は発光した
暗闇に跪き、両手を組んで
あの頃、彼は両手を差しのべた
背後の照明に、照らされて
顔の無い客席へ

歌だけを残して
若い彼が世を去った
あの日から――僕は耳 ....
二度と無い(今日)を刻印しよう
ないふのエッジの上で
両腕の翼を広げいつのまにやら、綱渡っていた
無重力な――小人のぼく!

ぎりぎりの日々を
あんのんと{ルビ胡坐=あぐら}かいて
呆け ....
その少女の瞳には
空白の明日を覆い隠す…不安と
不安の奥底にゆるがぬ
一本のすじが、通っている

少女はすでに、聴いている
得体の知れぬ煙の塊を
明日へ投げ去った時

ふいに訪れる、 ....
僕の部屋には
あの頃のBensCafeの朗読会で
幾千人もの詩人が
笑いと涙の肉声を語った
黒い小さな舞台が
壁に、立て掛けてある。
所々に薄くペンキのはげた
その聖と醜の混濁した
皆 ....
路面に無数の石は埋もれ
ひとりひとりの石の顔は
瞳を閉じて、哀しみ唄う

この街には色がない
(透きとおったビルの群)
この街には声がない
(透きとおった足音の群)

いつからか
 ....
夏の夜の旅先にて
ふらり、身を入れた店で
フォアローゼスの水割りを傾けながら
もの想う

もうずっと探してる
あふれる時を

氷がからん、と合図して
ようやく僕は、目を覚ます
瞬き ....
あなたは、咲こうとしている

――長い間
時に風雨に、身を{ルビ晒=さら}し
時に日向に、身を開き
地中へ…根を張り巡らせて
世界にたった一人の、あなた
という花を咲かせる為に

蕾 ....
――あなたは、聴くだろう。
日々の深層の穴へ
ひとすじの{ルビ釣瓶=つるべ}が…下降する、あの音を。

――漆黒の闇にて
遥かな昔に創造された、あなたという人。
遺伝子に刻まれた、ひとつの ....
一日の仕事を終えて
帰った家のソファに、坐る。
ママは台所に立っている。

人より染色体の一本多い、周は
パパが足を広げた間に
ちっちゃい{ルビ胡坐=あぐら}をかいて
「おかあさんといっ ....
桜吹雪の舞うのは
春のみか――?
否、人々は気づかぬだけ。

目を凝らせば
宇宙永劫二度と無い
今日という日の花びらが
ほら、目の前に透けて

ひらひらと  
能面被って
声を、殺して
あえて明るい色彩の着物を身に纏い

たとえそれが千年昔の恋物語であり
源氏に捕らわれた{ルビ重衡=しげひら}が、死刑へ歩む
前夜の密やかな宴だとしても

透け ....
房総の終着駅に停車して
ひと息ついてる、ふたつの車両

ひとつは、黄色いからだで希望に満ち
ひとつは、少々古びたからだの味わいで
親子ほど年の離れているようで
肩を並べ、明日をみつめている ....
翔子さんの筆から生まれた
その文字は、無邪気に駆けている。
その文字は、歓びを舞っている。

  「空」

誰もが自らを空の器にして
忘我の瞬間を、求めている。

翔子さんの持つ
 ....
草茫々の只中を
分け入ってゆく…夜明け前
(突如の穴を、恐れつつ)

それは{ルビ完=まった}き暗闇に似て
清濁の水を震える両手の器に、揺らし
あわせ、呑む。

――我は信じる。
  ....
今年は申年なので
翔子さんは願いをこめて、筆を持ち
半紙に大きく「申」と書いた。

翔子 さんが「申」の字を書くと
鼻筋の一本通った
何処か優しい
ほんものの「申」の顔になる。

― ....
風は密かに吹くだろう
人と人の間に

透明な橋は架かるだろう
この街の何処かで

濁った世間の最中にも
時折…虹はあらわれる
――千載一遇の<時>を求めて

今日も私は ....
オランダのチューリップ畑の{ルビ畔=ほとり}に
浅い川は緩やかに流れて
カーブを描く辺りに
一人の風車は立ち

やがて赤と黄色の無数の{ルビ蕾=つぼみ}は
過ぎゆく風に身を傾げ
遠い風車 ....
海岸沿いを走る車は、山道に入り
坂を上る、木々の葉群の隙間に
一瞬、輝く太陽の顔は覗き

夜の列車のドアに凭れた窓から
ふいに見た、夜空に浮かぶ
ましろい盆の月は夜を照らし

――昼も ....
真夏の{ルビ陽炎=かげろう}揺れる
アスファルトの、先に
琥珀に輝く円い岩が
ひとつ、置かれている。

額の汗を拭って、歩く
旅人の姿は段々…近づき
数歩前で、立ち止まる。  ....
若き日の明るいあなたは
処女詩集を上梓して
母親代わりの恩師から
優しい言葉をかけられました

在りし日の母は瞼に浮かび
うわっと涙の数珠が
頬にこぼれた落ちた時

透明の体で影から ....
どうすれば僕は  
急坂さえも一気にのぼる  
機関車男になれるだろうか?  

この腹に内蔵された  
エンジンの蓋を開けたら  
思いの他にぼうぼうと     
炎は燃えていたのです ....
緑の庭の階段で 
座る少女に 
覆いかぶさる葉群から 
木漏れ日はふりそそぎ 

何かを両手に包む、少女は 
嬉しそうにこちらをみつめ 

テラスの椅子は
かたかたっ…と風に揺れ 
 ....
暑中お見舞い申し上げます――  

越後湯沢の詩友から届いた風の 
便りには自筆で風鈴の絵が描い
ており、葉書の真中の空白から 
ちり〜ん
と風に靡く紙の下から密やかな
鈴の音が、鼓膜の ....
谷中ぎんざの通りには 
石段に腰を下ろした 
紫の髪のお婆さんが 
せんべいを割り 
群がる鳩に蒔いていた。 

向かいの屋台は 
木の玩具屋で、おじさんは
「ほれっ」とベーゴマを   ....
朝、カーテンを開いたら 
眼下に広がる野原に幾千人のブタクサが 
黄色い房の身を揺らし皆で何かを言っている。 

物書きを志す{ルビ故=ゆえ}に  
家族に慎ましい日々を送らせてしまっている ....
いつも銅像の姿で座っていた 
認知症の婆ちゃんは、ある日 
死んでしまった爺ちゃんを探して 
杖を放り出し、雨にずぶ濡れながら 
駅までの一本道を、ずんずん歩いた。 

最近、壁の前に立ち ....
ほんとうに心配なことは 
まるごと天に預けよう 
あまりに小さいこの両手は 
潮騒を秘める貝として、そっと重ねる 

 
幸福よ、お前は何故 
いつも私を苦しめる? 

幸福よ、お前は何故 
いつも私を試みる? 

私は只、眠れぬ夜の淵で
待ち侘びる幼子になり 
乙女の胸に安らいたい・・・ 

幸福は ....
ヒヤシンスさんの服部 剛さんおすすめリスト(60)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
日向の本- 服部 剛自由詩116-9-16
函館山の麓にて- 服部 剛自由詩316-8-26
始まりの人- 服部 剛自由詩216-8-17
鳥人間- 服部 剛自由詩116-8-9
揺れる、瞳- 服部 剛自由詩316-8-8
僕等ノ星_- 服部 剛自由詩116-8-8
透明の街- 服部 剛自由詩216-7-26
夢ノ声- 服部 剛自由詩316-7-14
もう一度、蕾から- 服部 剛自由詩416-5-19
零の世界- 服部 剛自由詩416-4-18
キャッチボール- 服部 剛自由詩516-3-23
日々の風景- 服部 剛自由詩516-3-17
能面の女- 服部 剛自由詩316-3-17
夢の汽笛___- 服部 剛自由詩316-2-15
ましろい世界___- 服部 剛自由詩516-2-14
鍵___- 服部 剛自由詩116-2-14
「申」___- 服部 剛自由詩116-2-5
ドアノブ___- 服部 剛自由詩316-2-5
異国の夢___- 服部 剛自由詩416-1-12
聖画ノ声___- 服部 剛自由詩415-9-14
夏の夢- 服部 剛自由詩815-7-16
葉ずれの、音- 服部 剛自由詩614-5-22
機関車男__- 服部 剛自由詩1213-8-18
風のひと_- 服部 剛自由詩9*13-7-16
風鈴の絵_- 服部 剛自由詩9*13-7-16
谷中日和__- 服部 剛自由詩1013-6-24
朝の声援_- 服部 剛自由詩3*13-6-24
旅の始まり_- 服部 剛自由詩610-9-28
貝の祈り_- 服部 剛自由詩610-9-28
幸福ノ声_- 服部 剛自由詩210-9-28

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