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桜に混じって散り始めた朝も
川面を滑る鴨たちの口ばしも
濁さないほどそっと静かに
重ねた手のひらからさらさらと
留まることなくこぼれて落ちる


喉元がとくとくと同じリズムを刻む
指の ....
■チューリップ


包むように咲く花びらは
遠いむかしにわたしの頬を覆った
大きくて暖かな手のひらに似ていた


誰のものだったかは
もうとっくに忘れた


中に隠れている ....
間違えないで、空


ざくざくと刻んで煮込む白菜も
頬を薄く赤く染める風の痛みも
機械みたいにぎこちないゆびさきも
そろそろ片付けようと思っていたのに


ちらほらと芽吹いている梅の ....
母が愛用していた足踏みミシンは
居間の隅っこを定位置にしていた
毎日使っていたわけではないが
学校で雑巾を持って来いなんて言われると
その夜はかたかたと音を立てていた


ミシンは
物 ....
昨夜の雨を吸った落ち葉はぶよぶよと柔らかくなり
いくら踏みしめても何の音も鳴らさなかった
足跡さえも吸収してしまいそうな弾力は
寒さを忘れそうなほどの優しさで失望を覚える


冬はいつだっ ....
緩やかな上り坂を自転車で走ること十五分
月極駐輪場から歩いて五分
駅に着いたときにはいつだって息が上がっている


通学に使用していた路面電車は
この辺りの住民にとって大切な移動手段
そ ....
■罫線

歩くことなんか出来ないってわかっていても
真っ直ぐに続く道を知りたかった
言葉はあまりにも無防備すぎて崩れそうで
その柔らかさを利用して思い切り固くした


発しては、ほろほ ....
熱帯夜みたいなきみの瞳はもの悲しくて
ひとつぶの砂も巻き上げることはなかった
湿らせたのはほんのわずかな空間だけで
振り返った背中の先には象のおりと高らかな歓声


きみのその長い首を支え ....
ひと気もまばらな公園で
湿った土の上に落ちた椿の花は
どこか心細げにこちらを見ていた
ささくれたこの景色には眩しすぎるので
その紅色を熱でとろとろに溶かして
指ですくいとりたいと思っていた
 ....
握り締めることなんて出来ないってわかってるのに
風に翻弄されて舞い落ちる粉雪をつかまえて
その結晶を手のひらに刻み付けたいと思った


この冬最初に降る雪を見たのは
帰省先である少し北の街 ....
そのうち通り過ぎるだろう
ほんの気まぐれな天気雨


一面の田んぼだったこの辺りは
ほんの少しの間に住宅街になった
たくさんの家が整然と並べられ
目線を上に持っていけば
規則的に並ぶ青 ....
わたしがうさぎだった頃
この世は赤いもやがかかっていた
花びら一枚にも手が届かないので
うつむいてありの行列を眺めるしかなかった


わたしがひなどりだった頃
飛び立ちたくて仕方がなかっ ....
木枯らしがからからと乾いた音を立てる
あらゆるものの輪郭がくっきりと描かれ
移り変わる季節への感傷に浸りたいのに
冷えた手は無意識のうちに摩擦を起こし
細胞の根元から発信される欲求を満たそうと ....
きみから放たれた愛しい種子は
酸素に混じり肺に吸い込まれ
潤んだ空間にじわじわと溶ける


熱いため息が吐き出されたとき
そのあまりの重さに
飽和状態であったことを知る


きみの ....
雨上がりの濡れた空気に
しっとり染み込む芳香は
垣根の向こうの金木犀


乾き始めたアスファルトに
規則正しくむちを打つのは
子どもが回す赤いなわとび


吸い込みすぎて重たくなっ ....
母が縁の下から引っ張り出してきたびんは
レトロでポップな橙の花が描かれていて
若い頃の彼女の趣味であったのだろうと想像出来た


恐らく本来は真っ赤な色をしていたのだろう
すすけたえんじ色 ....
うちから少し歩いたところに住宅街があった
大通りから出る七本の細い道で構成されており
それぞれの道には一号通りから七号通りまで
安直な名前が付けられていた


小学校に上がって通い始めた書 ....
生まれたばかりのきみは
ぽやぽやとした輪郭でふわふわとした軽さで
赤ん坊の手のひらにもおさまるほどの大きさで


あたためられてすくすく育つ
産毛はだんだん寄せ集められて太くなり
気付け ....
熱い光はただ重なって
そっと重ねられて


渋滞した道でせわしなく鳴るクラクションも
軽やかに散歩する犬の太くて短い声も
光に飲み込まれてかき混ぜられて
珈琲に落としたミルクみたいにぐる ....
泡粒の数だけ思い出があり
からからからと音がする


競走はいつでもいちばん最後
ひとあし遅れて着いた小さな菓子屋で
真っ先に選ぶのは瓶入りのラムネ


にじみだす汗を乱暴にぬぐい
 ....
抱えきれないほどに大きくなりたかった


青々としたたくさんの細長い波が視界を埋め尽くし
何処まで続いてるのかなんて見当も付かない
涼しい風が吹く頃には黄色く重い稲穂が頭を垂れ
やがて精米 ....
おさなごの手で目隠しされたみたいに
まだ薄白くぼんやりとした月は
うろこ雲のすき間から顔を少しだけ見せる

指で四角に切り取って覗き込んでみた
ぼくたちよりうんと長く生きたこの風景は
瑞々 ....
月乃助さんのあ。さんおすすめリスト(22)
タイトル 投稿者 カテゴリ Point 日付
すきとおる- あ。自由詩16*10-6-20
春の或る日、植物園にて- あ。自由詩1510-4-21
春のてまえ- あ。自由詩10*10-3-10
ミシン- あ。自由詩8*10-3-1
帳尻を、合わせる- あ。自由詩21*10-2-22
路面電車- あ。自由詩12*10-2-16
ノートのおと- あ。自由詩12+*10-2-1
きりんの首の骨- あ。自由詩9*10-1-25
おんな椿- あ。自由詩11*10-1-13
この冬最初に雪を見たのは新年だった- あ。自由詩15*10-1-1
美しく積み上がった世界の中で- あ。自由詩9*09-12-17
わたしが変化していた頃- あ。自由詩16*09-11-25
木枯らしがぼくを飛ばしていった- あ。自由詩14*09-11-16
きみの球体- あ。自由詩21*09-10-23
芳香- あ。自由詩22*09-10-17
梅酒- あ。自由詩10*09-10-13
いちご通りの話をしよう- あ。自由詩15*09-9-25
言葉、へ。- あ。自由詩11*09-9-24
初秋、夕暮れに- あ。自由詩20*09-9-9
ラムネ- あ。自由詩13*09-8-31
回帰する海- あ。自由詩9*09-7-7
地球の子ども- あ。自由詩15*09-6-5

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