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―離して
耳のツンと立った黒い子犬は
首に腕が回されるたび吠えた
―僕がいると
余計に泣かしてしまうから
犬小屋が空っぽになるのを恐れ
子犬の声まで鎖をかけられていた
....
私たちはつながっている
滝つぼでせめぎあう水のように
ときには去りかけている手を
つかむように
私たちは引き合っている
玄関にあるクツや
座っているイスのように
それは確かなこと
....
ここに今
セミのヌケガラがあるからといって
私だと思わないでください
私はそれがないところにいます
陽ざしの中で
水の粉しぶきをあびた
綿毛の舞う先に
私はいます
私は
いま死ん ....
「おじいさん こんにちは
また会いましたね」
おや あんたかい
また会ったね
「こんな坂道で
今度は何を拾ってるんですか」
おったまげたねぇ
分かるかい
....
ここだけの話
寂しそうな家の前を通ると
文字のない手紙をポストに入れる
いつも笑顔の少年が
この町にいるという
行く先々で配る手紙で
肩からかけている袋は
いつも重い
どれくら ....