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家は深く埋まるように石灰岩の石垣に囲まれている
来襲する猛烈な台風から屋敷を守るため頑丈な
けれどその石垣を越え いや崩しながら
夜な夜な犯しにやってくる
波がある
生け贄を求める ....
水は重く、水は重く
地に深く沈みこんでいる
岩陰に臍のように窪んだ一角
降り井戸の底の暗がりに残された一匹の
赤い鎧を着た魚
地の底よりふたたび湧き出してくるものを
みつめる黒 ....
台湾人がやっている置物屋で買った
誕生石にまつわるブレスレットを腕に巻いていたら
霊能者にさんざん罵倒され
軒下に巣食っていた日除けの蜘蛛
ジリジリ逃げる
堕胎した子を洞穴まで連れて ....
真夜中に揺り起こされた
見知らぬ男が側にいた
男は声を潜めて、島を焼く、と短く言った
これから島を焼くのだという
どこへでも好きなところへ逃げろ、そう呟いて ....
経糸の波が島に打ち寄せ
砕けた珊瑚の欠片が筬の羽の隙間を通る
浜は白く織り上げられ
降っては降りてくる日射に
転がる岩岩は奪われた影を慕っていたが
素足 ....
7日に蛭木の浜に下りていき
ヨガをする。
足の爪先から、踵まで、ゆくりと着地する。
干潮を合図に背中を反らせ、アーチを模る。
オヒルギとメヒルギが
音をひらいて絡み合い
嘆いて赤土を溶 ....
今夜は神日和{ルビ=カンピューリゥ}
神日和{ルビ=カンピューリゥ}は物忌み
神日和{ルビ=カンピューリゥ}の夜は家の外へ出てはいけない
村の年寄りは若者に諭した
けれど若者は
十三日の ....
くらやみのひかれた丘の上で
私は黙想している
近くに大きな河がある
冷たい風の向こうがわ
乳のように深くて豊かな河が
夜に寄り添うように
よこたわっている
河は今、水かさを増している ....
友人のパペットは詩人です。
有能な助手である腹話術師は、実はシャーマンです。
もちろん彼は左利き。
そして真白いシーツの手術台にいつも乗せられて
セルロイドの顎をカタカタ鳴らして話しているのが ....
(月を黒い種に、太陽を色彩の影のない輝きの雨にして)
ほんのりと甘い、果物の匂いがした
乾いた風が吹く緑の丘の上から
眼下に広がる果樹園を見下ろす
頭上の雲から誰かに見張られていて
けれ ....
青灰色に輝く海岸沿いに
小さな赤い屋根の家が立つ
その家には
ブラウニーの妖精たちが棲んでいる
小さな妖精たちは
茶色のボロ着を身にまとい
いつからかその家に棲みついている
....
僕の銀色の船は、雨の海を北上し、
目的地の虹の入り江にたどり着いたところだ
虹の入り江は、とても綺麗に湾曲している入り江だ。
ここは本当に美しい月の名所で
地球にいた頃から ....
あなたの頭蓋骨を、かき抱く
この胸に熱く
柔らかな髪に包まれた後頭骨に
私の上腕骨を回して
冷たい額の向こうの前頭骨に、頬骨を寄せる
あなたが考えていることが、私の心に伝わってくる
....
白く獰猛な太陽は
月面の果てしない砂(レゴリス)に生命を吸いとられるように沈み
僕の銀色の船は水のない海(マーレ)を
宇宙の闇夜に揺られながらゆっくりと航行する。
僕は今、雨の ....
散るために咲く花の 年々
洞庭湖の晩 暗く 俯き
薄氷の光を踏む
木立の沈黙 彩か鳥の姿まだ帰らず
君の歌声 一遇 銅琴の音 華やかなりし頃
遠く
宮廷楽人 詩酒の会
....
静かの海に来る前に、晴れの海に寄ったんだ
月の海、そうこの大きな穴ぼこ、クレーターは月の内部から湧き出してきた溶岩で覆われている
僕の銀色の船についている小さな窓からのぞいていると
ちょうど灰色 ....
他人に銃口を向けられることと
自分で自分に銃口を向けること
どちらの方が気が楽なのか
私にはまだ分からない
今分かるのはどちらにせよ
あの鳥をこの銃で撃ち落さなくてはいけない ....
暹羅(シャム)猫を飼うのは難しいから止めたほうがいいと友人は言っていた
でもお前を飼って正解だったと今は思う
私はこの2年仕事を終えると一目散にお前のもとに帰ってくる
ソファに寝そべって愛しい茶 ....
お前と一緒に暮らしていて
いつも思い知らされるのが
与えた分だけ与えられるとは限らないのが愛だということ
誰よりお前を愛している
手入れされた上質の柔らかな毛皮
しなやかな体つきや
綺麗な ....
青空模様のタイルに覆われたような
ガラス天蓋のあるコンコースを歩く
ひとけのすくない午後の駅には
のどかな旅愁が満ちている
上空は強い風が吹いているのだろう
立ち止まった路のうえを
雲が落 ....
切り倒したばかりの白木 刳り貫いて
船をつくろう 船をつくろう
亡くなった人の骸を入れるため
船の棺に入れて 愛しい亡骸を入れて
白浜へ挽いていこう 海まで挽いていこう ....
映画館の観客席で
私はサイレント映画の最終上映を観ている
スクリーンの中では
どこか大きな河の岸辺に
冬の渡り鳥が集まり
その鳥を1羽
少女が肩に乗せている
枯草と砂 ....
ある国に住んでいる悪魔が
ある教会の美しいステンドグラスとオルガンと聖母子像と黄金の鐘と
そこで毎日祈りを捧げている敬虔な神父を激しく憎んでいた
彼は日が暮れると宵の明星、魔王に誓いをたてた ....
<風の記憶>
真夜中過ぎの嵐
窓辺で震えながら聞く荒れ狂う風の声
轟々という叫び
揺れる木々の一本一本に
神様が宿っている
翌朝は無残に散っていた
からたちの花
あめかぜの ....
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小さな南の島の
星砂の浜に
小さな青海亀が生まれました
波の泡のように柔らかな水色の甲羅を背負った
たくさんの子海亀たち
まあるいお月さ ....
いつもより遠出した散歩の途中
気がつくと僕は
古墳の前にいた
その古墳のことを
僕はそれまでただの自然の丘だと思っていた
『県指定史跡』と書かれた案内板に
黒い鳥が一匹だけ止まっている ....
青銅製の戦士像
錆付いた彼の硬い頬に
涙がひとすじ
流れてる
多感な彼女は
どこにいてもそれが分かる
神様のように優しい雲たちが
どんなに慈悲深く
覆い隠そうとしても
....
とろりとろりと
日が暮れて
お社の石灯篭の暗い影
僕の背丈より
いつの間にか長い
鬱蒼と生い茂る鎮守の森
空にはねぐらに帰ってきた鴉の
黒く騒がしい群れ
忍び寄る夕闇せかされて
....
嵐が過ぎ去ったばかりの
夜明けの海岸に
僕は僕の相棒の野良犬と連れ立ってやって来た
激しい台風が
思う存分 遠慮なく吹き荒れてくれたおかげで
夜明けの海の薄い水平 ....
最近では人の姿もめっきり少なくなった
街角の公園
細い木立の合間
ブランコが木枯らしに揺れる
寝そべり始めた太陽が
砂の上にいくつも影を落とす
錆付いた ....