すべてのおすすめ
黄昏時には不意をついて
冬が何処からか現れ
桜の枝で褐色になった枯れ葉と
わたしのこころを繋いでしまう
ポケットに入れた手が
ほんのりと寂しさに温まる頃
去年届いた便りの
名前が消え ....
見覚えのない住所から
冬の匂いの封筒は届き
記憶の引き出しから
銀のペイパーナイフと
あらん限りの想いの欠片とを
わたしは交互に取り出す
かさり、と開くと
月夜の薄明かりのなかで ....
秋の空気には
透明な金木犀が棲んでいる
陽射しに晒した腕が
すこし頼りなく感じ始める頃
甘く季節を騙す匂いは
思い出の弱いところを突いて
遠くにいるひとの微笑みだとか
風邪気味の ....
雨が上がると
空気が透明を増して
夏の名残と夢とが冷まされ
水の中を歩くように九月
夏服の明るさが
どこか不似合いになり
息を潜めていた淋しさだとか
熱に乾いていた涙が
堰を切 ....
曇り空に
夏が少し薄れて
鮮やかを誰かに譲った向日葵が
枯れた葉を恥じらうように俯いている
風に混じって遠い蜩の声が
髪を擦り抜けると
秋、と囁かれたようで
逝く夏に何か
何か ....
浜辺に群がる人波が
ひとしきりうねって退いたあと
待ち兼ねていたように
波音は膨らみ
熱を孕んだ砂の足跡も風に消されて
浜は打ち上げられた藻屑の褥(しとね)になる
風が
湿り始め ....
水鏡の裏側からわたしは見ている
黄色い土壁と
くすんだ緑の屋根を
潅木の足元に散り落つ白薔薇を
誰かの足音は
水面に波紋を広げるのだが
雨のひと粒ほどに
まるく響きはしな ....
さびれた歩道橋の上で
夏を見上げると
空、空
本当に海まで続いているのだろうか
この橋の下を流れる車の群れが
緩やかな河口付近の川だったらいい
時折陽射しに煌めくヘルメットが
....
そのとき奇跡を初めて信じた
この世に無駄ないのちの誕生はひとつも無いのだ
あっ、食べたね
その肉はさっきね、
やわらかく やわらかく揚げたんだよ
ああ
カリカリのドッグ ....
ひとたびの雷鳴を合図に
夏は堰を切って
日向にまばゆく流れ込む
其処ここの屋根は銀灰色に眩しく反射して
昨日まで主役だった紫陽花は
向日葵の待ちわびていた陽射しに
少しずつ紫を忘れる
....
雷鳴に少し怯えて
ようやく雨が遠ざかると
いつしか黄身色の月が
丸く夏の宵を告げる
湿度が首筋に貼りついて
ついさっき流れた汗を思う
狡猾な二本の腕を
互いの背に回して
策略の ....
めろんの翠が涼しい頃
強引な若さだけを連れて
新しい部屋を探したわたしが
照れながら甦る
必ずしあわせになるのだと
啖呵を切って
飛び出した古い家
裏付けるものなど何も無く
ただ
....
ソーダの泡のような微睡みのなかで
懐かしい とても懐かしいその面影に出会った
記憶の深くに留めようと
すればするほど
表情は淡くなる
ならばこの夢でだけ覚えておこうと
思い切りこころを ....
夜は綻び
朝が死角からやって来る
陽射しが強くなれば
それだけ濃い影は出来て
ありふれた若さのなかに取り残したわたしと
残り時間を失ってゆくわたしが
背中合わせする毎日に
日 ....
空の水がみな注ぐ
水無月ならばこそ
ガクアジサイのぼんぼりに
青色 むらさき
灯りを点けて
こころの内を絵に描いてみる
哀しみ惑う雨模様は
霧雨に溶いた絵の具で
ぼんやり滲んで ....
湿った闇に蛍ちかり
潤んだ夜に星ひかり
小指から糸を辿れば
丁度きみの背のあたり
絡んだ赤が花になる
夏は夜
浴衣を着れば良かったと
木綿のシャツを少し恨んでみる
盆 ....
海と繋がっている
照り照りとした
小さなオパールをつまんだとき
海水の温度のようだった
人いきれにむせる空気の中で
そう感じたのは
単なる錯覚ではなく
この生命の何処かで
潮の ....
梅雨の晴れ間を狙って
そっけなく届いた封筒が愛しい
きみが指を強く押し付けたはずの
テープをもどかしく剥がす、剥がす
剥がすと
草色の便箋に並んだ文字が
少し潤んだ懐かしい声に変わ ....
風景は翠に染まり
懐かしい記憶に薄荷の味がする
今、ひんやりと誰かの影が映った
声を掛けようとしたら
今日の霧雨が人差し指の形になって
口元を制止する
濡れそぼった公園のベンチ ....
風が吹き抜ける
うたから零れる水滴に
滲んだかなしみを知る
きみを包む町から
初夏の気配を纏って訪れたうたは
インクの匂いをさせながら
紙を静かに滑り落ちて
こころの中に海を創る
....
こんな晴れた日
野の緑はしなやかな腕を
天に向かって伸ばし
陽射しに仄かな生命を温めている
草むらをすり抜ける風は
蜜蜂の
しじみ蝶の
か細い肢に付いた花粉を
祈りに変えて
次の ....
散る散る ちるらん
花びらの
風に任せた行く先は
夏の匂いの西方か
揺り揺る ゆるらん
水面に降りて
さざめく海に恋がるるか
思えば君に逢うた日の
宵は海辺に砂嵐
さらさ ....
スプーンの背で潰した苺から
紅が雲に届いて夕焼けになる
静まれ しずまれ
桧扇を広げて
漆黒がそこまで来ている
上着の釦をもうひとつ閉めて
心して迎えよ
静電気をちりち ....
黒い静寂の隙間から
甘く短い便りが届き
振動はそのまま
片耳から深くに伝わって
封印が容易く解かれる
ひとつひとつの接吻が
蝶になって
夢心地だった恋の日も遠く
雪と降る ....
きっと白に近くあり
霧雨を含んだ夜のなかに
咲き急いだ桜がひとつ
白く闇を破る
陽射しを浴びて
咲き競うのは
きみ
きらいですか
こんな湿った濃紺の中で
意表を突いて ....
私鉄沿線のダイヤに則り
急行列車が次々と駅を飛ばして先を急く
通路を挟んだ窓を
横に流れるフィルムに見立て
過ぎた日を思えば
思わぬ駅で乗り降りをしたわたしが映る
網棚に上着を ....
春が
はるが
傘の水滴に溶けて
声も密やに
幼いまるみの春の子に
子守唄を聴かせる
まだ固く木肌の一部の様子で
繚乱、を隠した蕾は
雨にまどろみ
陽射しに背 ....
ももの花
軽い衣に春染めて
緑の枝葉も知らぬうち
蕾のままに頬はほころぶ
絢爛のぼんぼりもなく
錦糸の衣も纏わずに
春の節句の雛つがい
ももいろの
笑みに吹かれて
ひな祭り
....
うたを綴る
ひとつ ノォトに
うたを紡ぐ
ひとつ こころに
今日の言葉を装い
明日吹く風を纏う
雲に似て
恋に似て
刻々とかたちを変えるその憧憬を
留めるため
小さな引き出 ....
背なか 背なか
もたれかかった珪藻土の壁には
真昼の温みが宿り
後ろから
春の衣をふうわり掛ける
あし
足もと
埃だらけのズックの下で
蒲公英は蹲り
カタバミが少し緑を思 ....
1 2 3 4