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「 いってきます 」
顔を覆う白い布を手に取り
もう瞳を開くことのない
祖母のきれいな顔に
一言を告げてから
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く
散歩日和の道を歩く
....
群衆は「悪」を免れぬ、羊の群
国も、病院も、街も、荒んだ牧場・・・
その昔
人体実験の手術に
加われず執刀医の背後で
怯えたまま青白い顔で立ち尽くす ....
私は今日も、顔を洗う。
両手で覆った顔を上げて
目に映る何でもない日常が
常に真新しい(今)であるように
*
もう会うこともない
ある人が
いつか何 ....
暗天の下に荒れる
大海原に背を向けて
丘の上の白いまりあ象は{ルビ俯=うつむ}いて
一人の幼子を抱いていた
長年の雨や泥に
汚れた背中を隠しもせずに
只、一人の幼子を守るこ ....
どうやら僕は
今迄の思い出を
大事にしすぎたようだ
部屋の中は
まだ終えてない宿題みたいな
山積みの本
ポケットの中は
札は無くともささやかな記念日の ....
西の海に、陽の沈む頃
港の木橋に腰を下ろし
新聞を手にした旅人は
首を傾げ
東の空へ、目を向ける。
( 瞳を奪う夕陽よりも
( 世間の騒ぐ記事よりも
( もっと大事な ....
屋久島の暮らしでは
無数の鯖が
村人達の手から手へとまわり
こころからこころへとめぐり
一匹の鯖を手に
樹木のように立つ老人は
不思議なほどに
目尻を下げる
夜明 ....
「スライディングをして
サッカーボールを蹴った
ナカムラシュンスケ
が映るテレビを見て
小さい両手を頬にあて
幼い兄と妹は
ムンクの顔を並べる 」
と ....
三十年の間
一つ屋根の下ですごした
八十八の祖母が
悪性腫瘍と知ってから
街を歩いて目に映る
すべての人が
やがては空に吸い上げられる
幻の雫に見える
曇り空の果 ....