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風の音がした
ふり向くと誰もいない
十八歳のぼくが
この街をつっと出ていく
いつも素通りしていた
その古い家から
いつか誰かの
なつかしい声が聞こえた
敷石を踏む下駄の
細い ....
西へと
みじかい眠りを繋ぎながら
渦潮の海をわたって
風のくにへ
海の向こうで
山はいつも寝そべっている
近づくと
つぎつぎに隠れてしまう
活火山は豊かな鋭角で
休火山はやさ ....
シロツメグサで
首飾りと花束をつくり
ぼくたちは結婚した
わたしの秘密を
あなたにだけ教えてあげる
と花嫁は言った
唇よりも軟らかい
小さく閉じられた秘密があった
シロツメグサ ....
本のページをめくる
あなたの指が
風のようだと思った
あなたの中で
長い物語ははじまり
長い物語はおわる
本を閉じると
あなたはすっかり年老いて
物語のドアから出てゆく ....
わたしたち
流れて
真夜中の水になる
あなたの喉をやさしく潤して
そっと
夢の中にしのび込む
水は落ちてゆく
あなたの肩から腕をなぞり
そして
温かな水の中へと
導かれて
....
ゆうがた
ひとびとの背がかなしい
ひとびとの背を超えてゆく
魚がかなしい
水が均衡する
まずめどき
幻想の水をしなやかに
幻想の魚がおよぐ
しのびよる色が
....