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バナナが一本
海を底の方へ
ゆらゆら
落ちていきます
見たこともないその物に
身を翻し逃げていく
魚たち
大きなクジラが
大きな口を開けて
ザブンと飲み込む
夜、台所に行くと
....
降りしきる雨の中
傘もささずに俺たちは歩いた
死ぬほど歩き続けた
けれどそれで
俺たちが死ぬことはなかった
俺たち いい奴だった
俺たち 輝いていた
俺たちは生の肉だった
俺た ....
右手を挙げると
鏡に映る自分が左手を挙げた
右手を挙げさせるために
僕は左手を挙げる
外の方から小さな鳥のような鳴き声が聞こえる
空はまだ晴れているだろう
午後は爆弾を買いに都会へと行 ....
君はただひたすらに自動券売機をつくっている
外、春はとっくに酸化してしまった
困るね、こんな雨の日は
花壇に水をあげることもできない
僕の手の中で冷たくなっている冷蔵庫
その扉を開け ....
日が暮れていく、僕の脆弱な血管の中を
翼よ、あれがパリの灯だ
けれど、僕の翼はじゃがいもでできている
ポム・ド・テール!
大地のりんごよ、大空を飛べ、飛べったら飛びたまえよ
....
いつまでも
と誓いをたてるにはあまりに幼すぎたのだ
姉は朝食の後片付けをしながら
思い出し笑いをする
覚えてもいない妹は
今年初めて夏服に袖をとおした
吉岡君
電車の中で思わず声をかけそうになった
よく考えてみれば
こんな時間、こんな場所に
吉岡君がいるはずもないというのに
あの日と同じ顔
学生服のままで
そんな僕はまだ
....
このバスはどこに行くのですか?
運転手さんに聞くと
どこにも行きませんよ
と答える
もう走り出しているというのに
どこにも行かないとはどういうことなんだろう
不思議に思っているところで目が ....
あまりの暑さにクーラーをつける
よほど暑かったのだろう
いろいろな動物たちが家に集まりはじめ
またたくまにいっぱいになった
長い部位をもっている動物はそれをたたんだ
肉食動物は捕 ....
目が覚めると
右手がチョキになっていた
いったい僕は何と戦ったというのだろう
夜中、こんなものを振り回して
援軍の来ない小さいベッドの上で
冷蔵庫の中には青空が広がっていたので
君は買ってきたゼリーを冷凍庫に入れるしかない
冷凍庫は満杯でゼリーをしまうスペースをつくるために
君は肉の塊を取り出す
いつ買った肉なのかすっかり ....
フセイン、昨晩おまえの夢を見た
おまえは壇上から民衆に向かって演説をしていた
それはおまえの国の言葉なので俺には聴こえなかった
サダム・フセイン、俺がおまえの夢を見ているとき
おまえは俺の ....
ドーナツの穴から覗くと
世界はいつも
いいにおいがした
食べ物で遊んではいけない
そう教えてくれた人が
今ではもういない
あら、困ったわ
が口癖の君が困った様子なんて
今まで見たことがない
あら、困ったわ
なんて言いながらも
トントントンッとまな板の上で大根を切ったり
ザッピングをし続けた挙句の果ては ....
開け放たれた音楽室の窓から
合唱部員たちの歌声が聞こえる
放課後、行き場の無い僕らは
校庭の隅にある鉄棒に片足をかけたままぶら下がり
いっせいの、で誰が好きかうちあけると
やはり同じ子が ....
君の笑顔は椅子に似ていて
笑うと誰もが顔に座りたがる
散歩途中のお年寄りや
旅に疲れた旅人
アイスキャンディーを持っている人
ただ夕日を見ているだけの人
誰かが座ると嬉しそうにする ....
檸檬は今にも飛んでいきそうな色と
形をしているけれど
決して空を飛ぶことはない
朝、テーブルの滑走路で
あなたの背中に吹いた風が
ここまで届くようにと窓を開ける
どこからか
たどたどしいリコーダーの音が聞こえる
この星はとても小さい
今日も朝から
洗濯機が大声で歌っている
オペラのつもりのようだけど
音痴で
しかも、時々声が裏がえる
近所迷惑だからやめてくれと言っても
聞く耳をもたない
ありったけの洗濯物を押 ....
コーヒーをいれました
二杯
一杯はわたしのために
そしてもう一杯はあなたのために
並木のイチョウは黄色く色づき
風が吹くと何かの音をさせる季節
けれども窓は閉じられていて
見るこ ....
ほの暗い駅
列車の中で一点を見つめている
あなたの眼差しを見送る
”お気をつけて”
その一言だけが伝えたかったのだけれど
ベルが鳴り止んで動き出したのは
列車ではなく
ホ ....
もちを食べていたら
中から
ラケット二本と
シャトルが一つでてきた
正月は羽子板だよね
とか言いながら
僕らはいつまでも
バトミントンをし続けた
あの日
何回まで数えるこ ....
ゆらゆら揺らめく
かげろうの下にある水に入りたくて
僕は走り出そうとする
遠くに行っちゃだめよ
手を引き寄せられた
夏の日のいつか
日傘を差した母を困らせるなんて
したく ....
朝が沈黙している
少し開かれた窓辺の片隅で
その隙間から海に似たものたちが
ぼつり
ぽつり
と入り込んでは
満たそうとしている
出会ったばかりの幼子は
「さようなら」と ....
父も母も老いた
しばらく会ってないきみの両親も
老いたことだろう
時々ふと、水洗いでかさかさになった
きみの手を握りしめたくなる
というのはかっこのつけすぎかもしれない
十年た ....
カーテンを開けると大雨だった
ひどく気が滅入る日曜日だ
さらに気が滅入ることに
カーテンを開けたのは彼女の方で
私は外で立ち尽くしていた
ロボットは町中の人々に
自分はロボットであると言って回った
町中の人々は
確かにお前はロボットだと答えた
しかし、ロボットは
俺はロボットの言うことしか信じない
と言い続け
ある ....
妻と相談して
家にエレベーターを取りつけることにした
けれど、取りつけた後で
この家には二階も地下室も無いことに気が付いた
ボタンを押すと
チーン
と音がして扉が開く
上にまいりませ ....
彼女からの手紙が
炊飯器の中で見つかった
もう
ほっかほかの
ぐっちゃぐちゃで
炊きたてのご飯はうっすら黒く
食べると微妙にインクの味がする
時おりぐにゃりと繊維をかんだりもする ....
【透明人間の憂鬱】
透明人間の悩みは
最近、髪の毛が薄くなってきたこと
これでも若いころは
リーゼント、ヨロシクきめて
ハマのあたりでバリバリに透明だったぜ、ってなもんで
今ではバ ....
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